度を越さない

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夢診療所24

その24)
「これは僕が小5の時に通ってた進学塾ですよ」
「あなたは二人の女の子に興味があったのですか」
「そうなんです。そこに二人可愛い子がいたんです。一人は理知的な雰囲気で近寄り難いT子、もう一人は可愛らしい感じで親しみやすいL子でした。僕は同時に二人に憧れを抱いていたんですが、やがてL子と席が隣りになりました。嬉しかったはずなのですが、不思議なことに彼女の存在が疎ましく感じられるようになったのです。彼女に対する熱は一挙に冷めてしまったんです。距離を置いて接していたT子だけが、いつも神秘的でその後もずっと憧れの存在であり続けたんです」
「その心理は理解し難いですね。好きな子がそばに来れば、もっと好きになるはずではないですか」
「はい、僕もその心理がなかなか自分でも理解できなかったんです。遠い存在が近くなった途端、憧れの女性に対する熱が冷めてしまうのは、その後も何度となく経験しました。僕にとって憧れの女性とは、しゃべることも近くで接することもなかった遠い存在である必要があったみたいなんです」A氏の眼は遠い過去に思いを馳せる眼差しとなった。
次の場面は学校の校庭の隅にある砂場が映し出されていた。走り高跳びのバーが目の前に現われた。そのバーを颯爽とクリアしたスポーティーな女子生徒に視線は釘付けだった。彼女は均整のとれた肉体をしていて、全身がバネのようにしなやかだった。まるで宙を舞う女豹のようなあでやかさだった。足はすらりと伸び、食い込むような紺の短パンは彼女の下半身を浮き彫りにしていた。
「これは中学校ですね。あなた、彼女を好きだったのですね」心理士にはピンと来るものがあった。図星であった。
「はい、僕は一時期、彼女のことをずっと思い続けていたんです。ところが、ある一つの出来事を通じて、僕の彼女に対する憧れはシャボン玉のように割れてしまったんですよ」
「では少し画面を先送りしてみましょう」
モニターには、電話ボックスに入る場面が映し出されていた。
「あなたがどこかに電話しているみたいですね」
「そうなんです。彼女の家に電話していたとこなんです」
「え、随分思い切ったことをしたものですね」
「僕は悪友二人にそそのかされて、告るように言われたんです。ところが彼女はクラブから未だ帰って来てませんでした」
「その後、どうしたのですか」
「夕食時に彼女から電話がかかって来たんです。僕は家族と一緒でしたから、本当にドギマギしてしまいました。食事をしていた茶の間の隣に電話があったんで、僕はすべての襖を閉めて個室にしました。家族の者に聞かれたくなかったんです。あんな照れくさい思いをしたのは最初で最後でした」
「あなたは彼女に落ち着いて話せたのですか」
「受話器を取り上げた時には冷静だったんです。僕の頭にはただ告ろうという意識だけが鮮明に働いていました」
「突然、告られた彼女はどんな風でしたか」心理士も話につり込まれていた。
「彼女も冷静でした。確か『私も好きよ』と言われたことが僕の頭から離れませんでした」
「それではハッピーエンドでこれから二人の関係が始まるところだったのでしょう」彼女は先を知りたがった。
「いえ、僕にとってはこの告りがターニングポイントだったんです。僕にとっては彼女に思いを伝えることと、彼女から僕に対する思いを聞けたことで充分だったんです。不思議なことに、その時点で僕の彼女に対する憧れは、現実の波に飲み尽くされて消えてしまったんです」A氏は何故か悲しげだった。
「そう気落ちなさらないで下さい」心理士は慰める側に回っていた。
「これが僕にとっては、はかない初恋だったのかも知れません。それ以降、彼女との現実的なつながりが立ち消えたせいで、僕の心の中では今でも、ほのかな彼女に対する憧れが、当時のままの新鮮さで息づいているんです」彼は窓の外、遠くの山々に眼を馳せた。
「思い出が美しいまま残されていて良かったじゃないですか。男性はロマンチストなんですねえ。あなた方は現実よりも夢に生きてられるみたいですね。お聞きしていると現実に過ごした楽しさよりも、夢に生きた喜びに満足感を抱いてられるようですわ。
あなたが告った途端に、彼女に対する興味を失ってしまわれたのは残念ですけど、それはあなたが彼女に対して抱いていた理想と現実とのキャップがあまりにも大きかったからだと思います。あなたは想像の中で彼女に対する高過ぎる理想像を形造ってしまったのです。その理想像が現実的な彼女の振舞いを通して破壊されるのを潔しとしなかったのでしょうね。あなたは現実より理想を選んだのです。
その思いは男性にしかできない崇高な思いだと思います。私たち女にとっては羨ましい美徳です。これからもその理想を貫き通して行って下さいね」メガネの奥から光る彼女の瞳には、A氏に対する期待と憧れが込められていた。
A氏は彼女の視線を受け止めて、身体から湧き出る新たな感動を覚えずにはいられなかった。それは新しい恋の始まりであったのだろうか。
25に続く

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霊の満足、肉の満足

霊の満足、肉の満足

霊が満足している状態は幸福感や充実感で表される。肉が満足している状態は満腹感や虚脱感で表される。霊と肉は一体であり切り離す事は出来ない。従って満腹感と幸福感は連動し、虚脱感と充実感も連動している。大きな特徴としては霊の満足は目では見えないが、肉の満足は目に見える。例えば食欲には食物が必要であり、性欲には女性が不可欠である。
霊も肉も個体の消滅と共に存在を失うかに見えるが、霊については例外がある。死滅した個体の霊が他の個体の心の内に生きるという現象である。ある霊が他の人の心に残るかどうかの基準はその霊の貢献度によって決まる。つまり生きている間にどれだけ犠牲を払って相手の人間に尽くしたかによるのである。そして、ある霊が永遠性を得るには相手の霊を生前にどれほど満足させたかによるのである。

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