夢解析器2

その2)
(夢解析器のデモ)
大音響とともにアメリカ本社が大写しされた。そこで開発された{夢、解析器とそのシステム}の優秀さをいかんなく網羅しているビデオだった。誰もが口々に「素晴らしい」と叫ぶ姿が印象的だった。A氏にとっては何がそんなに素晴らしいのかは、全く判然とはしなかったのだが、いつしか本当に素晴らしい物にめぐり合えたことだけが印象付けられた。
ビデオの中では開発風景や機械を実際に使用している風景などが、次々に流されて行った。彼の中では機械に対する感動よりも、その映像と音楽によってもたらされる異常な心の高ぶりが一種、宗教的な快感をもたらすのであった。―これは洗脳だろうか?一瞬、彼の頭をかすめた考えは、エンディングのテーマ音楽によってかき消された。
ライトが点され、先ほどの受付譲が現われた。
「お疲れ様でした。いかがでしたか。若干、補足説明を致します」
A氏はもうろうとした頭で、彼女の言葉がはるか彼方に響いているように聞こえたのだ。
「ご覧のように、この『夢、解析器』は優れ物です。第一に夢の再現ができます。再現した夢を分析して、その方が何を望んでいるかを明らかにできます。反対に何を忘れたがっているかも明らかにすることができます。これらの機能は今まで開発された同型機にもついていたものでした。特徴的な第二の点は、あなたの夢に望みの人物や風景を登場させることができるという機能です。この新機能によって、夢自体を積極的に楽しむ機会が得られるようになったのです」彼女は得意な笑顔を浮かべた。
「それじゃ、あなたを僕の夢の中に登場させることもできるんですか」A氏は好奇心を抑え切れずに質問していた。
「もち論できます。簡単なことですわ。私はあなたの夢に何度でも、お好きなだけ登場いたします。ただし条件があります。夢の中に登場した私の意思は、機械で設定された時の意思と変わらないということです。いかに精密にできているとは言え、所詮、機械には変わりはないですので、夢の中で新たな展開が待ち受けていることはないのです」彼女はA氏の思いに予め釘をさすように言い含めた。
「何だ、面白くないですね。あなたが夢に出て来てもアバンチュールできないんですか」A氏はがっかりした。
「アバンチュールをお楽しみになりたいのなら、先ず夢に入る前の私の意思を変化させなければなりません。私の潜在意識に働きかけて、あなたとアバンチュールしたい気分を植え付けねばなりません」
「そう、それですよ。あなたが僕に興味を持ってくれれば良いんですよね」
「ここからは料金の話です。人の潜在意識に働きかけて、それを変えるというのは料金設定では最上位にランクされます。高級外車が一台買えるほどの値段ですよ」
「それはいくら何でもベラボウだなあ」
「私があなたの夢の中で自由にされるのですから、妥当なお値段だと思いますよ」彼女の気位の高さが、徐々に浮き彫りにされて来たのだった。
「そんなに高いんじゃ、現実に女性を口説いた方が安くつくよ」A氏はあきれるのだった。
「これは本来の使用法ではないから割高なのです。本来の使用目的はあくまでも夢の解き明かしなのです。それですとグッとお安い、お手ごろ値段ですよ」
「具体的においくらですか」
「悩みが一件片付くごとに大枚一枚というところです」
「まあ、そのくらいであれば妥当か。悩みのあるなしで加算されるということは、悩みがなければ、ただということですか」
「そういうことになりますが、ここにおいでになる方はどなたも、一つや二つの悩みはお持ちなのです。ですからわざわざこちらまで足を運ばれるのです」
「そう言えばそうだな」A氏は変に納得した。
「どうされますか」受付嬢は促した。
「はい、それでは基本コースでお願いします」
「では、夢解析室にご案内しますので、こちらからどうぞ」彼は彼女の後に従った。
  3に続く

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