夢解析器35

「こんにちは、ふぁーあ」A氏は挨拶と同時にアクビをした。
「Aさん、どうされましたか。いきなりアクビをされて」受付嬢は驚いた様子だった。
「朝方の雷で僕は寝不足なんですよ。夢か現実か分からない状態がずっと続いてました」
「そんなひどかったのですか。私は全く気付かず熟睡してましたわ」
「あなたは苦労がなくて良いですね。雷と雨の音に悩まされて全く寝た気がしませんでしたよ」
「それはお疲れ様でした。それではさぞ変化のある夢を見られたことでしょうね。さあ奥へどうぞ」受付嬢はA氏を廊下奥の緑の扉へと案内して行った。
彼は席に着くとすぐ睡魔が襲って来た。今朝も通勤バスの中でしばし熟睡し、下りるバス停を間違えそうになったほどだった。
ドアをノックする音がかすかに聞こえ、目を開いた時には心理士も既に席に着いていた。
「Aさん、良くお眠りでしたわね。お疲れのようですね」
「はい、今朝方の雷雨で寝不足なんです」A氏はアクビをやっと噛み殺した。
「へえ、そんな大雨が降ったのですか。私は全く知りませんでしたわ」
「あなたもあの雷に気付かなかったとは幸せで良いですね」
「はい、私は一旦、眠ると何があっても朝まで目が覚めないのです」
「僕も普段はそうなんですが、今朝は特別でした。一旦、目が覚めた後は床の中で夢と現実の世界を行ったり来たりしてましたよ」
「では、その時の様子を再現してみましょう」
機器のセッティングを終えた心理士がモニターの電源を入れると画像には6畳ほどの部屋が映し出された。
「あ、これは僕が中学時代から使っていた二階の部屋です。今朝、雷の音に目が覚めて、その音を聞きながら寝てたら、夢でこの部屋にワープしていたのです。しかもこの部屋でも雷は同じように鳴っていたのです」
「では条件は同じで場所だけが変わったということですね」
「僕は昔の部屋で雷の音を聞き、土砂降りの雨の音を聞きながら、今日は午前中休もうと考えていました。雨がひどいし、こんな寝不足じゃ朝から職場へは行けないと勝手に判断してしまったのです」
「この画面ではどなたか女の方がベッドメーキングをされてますね」
「あ、これは僕の姉です。彼女は僕の部屋の隣に自分の部屋を持ってました。何故、彼女が僕の部屋にいたのか分かりません。現実には僕の部屋に来たことなどなかったからです。その前には母親が入って来てたようです」
「あなたは時たま目覚めて部屋の様子やら本当の時間やらを確認されていますね。でも、すぐに昔の部屋の情景へと戻っています。あなたにとって中学時代の部屋が余程、印象深かったのでしょうねえ」
「そうかも知れません。僕は40年前の場所で早く職場に休みの連絡を入れなくちゃと焦っていました。その内、9時10分前になったのです。そこで、良いタイミングだと思い電話を入れることにしたのです。その辺りで夢から覚めました」
「では夢の中では午前中休まれるつもりだったのですね」
「はい、そのつもりでいました。ところが枕元の目覚まし時計を見たら未だ5時だったのです。僕は半ばガッカリし、半ばホッとして再び寝たのです。それから1時間ばかりは夢は見ませんでした」
「そうですか。それで起きられたわけですね」
「はい、中途半端な気持ちで起きたので納得行きませんでした。半休を取っていたはずなのに、仕事に行かなくてはいけないと考えただけでドッと疲れたのです。本当は休みたかったのですが、月曜は会議が3つもあるので休む訳には行かなかったのです」
「それは精神的にも肉体的にもお疲れでしたわね」
A氏は半日以上経った今でも未だ眠かった。睡眠不足の影響は一日中あるものだった。


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