夢解析器31 後篇

後編
「それでは奥様に取り付けさせて頂きます。痛くないですから、ご心配なく。Aさんからはがしたのをそのまま貼られるのは気持ち悪い、いやですねえ、ご夫婦なのですからそんな事はおっしゃらないで下さいね」
「頭に電気が流れるなんてことはないでしょうか」
「お前、大丈夫だって。電気椅子じゃないんだから、そんなこと心配するなって」A氏は横から口を挟んだ。
「奥様、Aさんの言われる通り、電気が流れるなんてことはありませんからご安心なさって下さい。センサーは奥様の脳波を検知して、その電気信号を解析器に送っているだけですから、ごく微弱な電流しか流れておりません」
「それを聞いて安心しましたわ。主人の頭では問題なくともデリケートな私の頭では問題が発生するかも知れないと心配してたんですの」
「何でお前の頭がデリケートで俺の頭が鈍感なんだよ」A氏はムキになり始めた。
「まあAさん、抑えて下さい。今は奥様の診断の番なんですからね。それで奥様の夢はどんなだったのですか」
「はい、起きる寸前に見た夢で私はうなされてしまいましたの。主人が約束通り7時に起こしてくれなかったものですから、私は寝過ごして余計な、見なくて良い夢まで見てしまいましたの」
「どうしてお前はそう、人のせいばっかりにするのだ」A氏は我慢し切れず、再び口を挟んだ。
「Aさん、少し静かにしていて下さい。今は奥様と私が話しているのですから、Aさんは黙っていて下さい。必要ならお声を掛けますからね。奥様、その悪夢をお話し下さいますか」
「はい、私は寝ながら喉にナイフを突きつけられていたのです。そして起き上がろうにも起き上がることができませんでした。トイレにも行きたかったのにどうしようもなかったのです」
「それは物騒な夢ですね。世の中には凶暴な事件が起こってますからね。個人の夢も世間の動きに影響されることもあるのです」
モニターにははっきりした凶器は映っていなかった。彼女が目覚めた直後の映像にはボンヤリした中で、子供の足らしき物が彼女の首の辺りに伸びていた。
「奥様、あなたは息子さんと寝てられますか」
「はい、下の子と寝ております」
「彼の寝相はどうですか」
「夜中じゅう動き回っているようです」
「それが夢の原因かも知れませんね。お子さんの足がたまたま奥様の首に乗った時に圧迫感を感じられたのでしょう。それが夢で凶器となっていたのです。最近、精神的な脅威は感じてられませんか」
「上の息子に私は馬鹿にされているのです。それが脅威と呼べるかどうかは分かりませんが、彼に口で対抗することはできません。言いくるめられてしまうのです」
「口で太刀打ちできないというのも一種の脅威かも知れませんねえ。母親は息子の脅威に対して無防備ですからね。息子がそんなことするはずがない、言うはずがないと信じ切っているだけに、予想外の言動をされた時はショックが隠せないのです」
「全くその通りですわ。息子の変化に私はついて行けないのです。私の中には息子たちの幼少の時のイメージが強く残っているので、現実の彼らの成長をそのままで受け入れられないのです」
「それはどの親御さんにも共通する悩みでしょう。母親は特に自分の息子には肉体的にも精神的にも余り変化して欲しくないというのが本音みたいですね。昔のままの可愛いさを保っていてくれるのが願いらしいです」
「そうなんです。保守的かも知れませんが、時間に止まってほしいと思うことさえあるほどです」
二人の女性の会話は延々と続くようであった。A氏はあきれて今では口を挟む意欲さえ失くしたみたいで、二人の会話を聞くでもなくただ呆然としていたが、そろそろ暇に耐え切れない時間となっていた。
「もう、そろそろ結論に持ってった方が良いんじゃないですかねえ」
「そうですね。特に問題はございませんが、出来るだけ早く息子さんと別々に寝られた方が良いように思われます。どうかお互いに子離れ、親離れなさってみて下さい」
「はい、分かりました。どうも有難うございました」
「今日は二人でお邪魔して、お手数をお掛けしました」


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。