夢解析器1

プロローグ(夢診療所)
「いらっしゃいませ」美人で理知的な若い女性がA氏を出迎えた。
「夢診療所へようこそ、おいで下さいました」看板は確かに堅苦しい名称だが、彼は看板娘をすぐに気にいってしまった。彼は単細胞だったのだ。
A氏が訪れた研究所は、都心にそびえる、ひときわ高いビルの三十九階にあった。彼はインターネットのフラッグ広告でそこを知ったのだ。
「あなたの夢を解き明かし、潜在意識の訴えをつぶさに解析します」とのキャッチコピーに魅せられた。
「へえ、夢を解き明かしてくれるのか。最近、おかしな夢ばかり見るからな。日常生活に精彩が欠けるから、夢の世界ででも遊んでやるか」彼はそんな軽い気持ちで出かけて来たのであった。
何やら「夢、解析器」という機械を使うらしい。機械に興味があった彼は、少し怪しいとは思いつつも、その機械に惹かれたのだった。
魅力的な受付嬢に奥へと案内されながら、A氏は「夢、解析器」を使って、この女性が出て来る夢を見れないものかとばかり考えていた。
入り組んだ廊下を右へ左へと行くうちに、緑の扉が目に入った。その上には「夢、解析室」という表示がされていた。
「あれ、もう夢の解析に入るんですか」A氏は受付譲に見とれてばかりいたが、ある程度、正常な判断力は働いていた。
「解析に入る前に、ここでのサービスを聞いておきたいんですが、予算の関係もあるので」彼の話は次第に現実的になって来ていた。子持ちの彼にとって自由になる金は少なかったからだ。
「はい、分かりました。ではこちらへどうぞ」受付嬢の対応は心なしか、ぶっきら棒になった。
案内された部屋の扉は黄色で「オリエンテーション室」と表示されていた。かなり広い部屋の正面に大きなスクリーンが設置されていた。
「え、これから映画でも見せるつもりなのか」とA氏がいぶかっていると、窓のブラインドが下がり始めた。
「これから三十分ほど映画をご覧頂きます。その間は外に出られませんのでよろしくお願い致します。それでは間もなく始まります」そう言いながら、女性は扉の奥へ消えた。部屋は真っ暗になり、前方のスクリーンには映像が出始めた。
2に続く
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