夢解析器34 前篇

前編
「こんにちは。今日はどんよりした一日でしたね」
「こんにちは、Aさん、お久しぶりですね。曇りなのに蒸し暑かったですね」
「昨日は会議が二つもあったり月末の締めやらで忙しかったのです。でもどちらも無事に終わり一段落しました」
「それは良かったですね。二日分の夢は憶えておられますか」
「さすがに一昨日の夢は完全に消えかかっています。印象的な部分だけが断片的に残っているだけです」
「そうですか、お話ししている間にまた思い出されるかも知れませんね。では奥へどうぞ」受付嬢は廊下奥の緑の扉へとA氏を導いて行った。
A氏は部屋に入り、窓から陰鬱な梅雨空のような秋空を眺めていた。
やがてドアにノックがあり、心理士が天気とは裏腹の明るい声で入って来た。
「あら、お久しぶりですね。Aさん、お元気でしたか」元気をくれる声であった。
「はい、元気ですが、昨日忙しかったので少し疲れ気味です。最近は週末になると疲れが溜まってしまいます」
「そうすると夜はぐっすり眠れるでしょうね」
「はい、朝晩涼しいので良く眠れます」
「それでは一昨日の夢からお聞きしましょうか」心理士はそう言いながら、機器類のセッティングをほぼ済ませモニターの電源を入れた。
モニターには学校の教室や廊下が映し出されていた。ポスターや展示品で飾りつけられていた。前に先生らしき人が歩いていた。
「僕は恐らく他校の文化祭に行ったのだと思います。前を歩いているのは先生のようですが、実は今の職場の元上司なのです。半年前までほぼ3年間、一緒に仕事をして来ました。僕は心の底から彼を慕っていたのかも知れません」
「そうですね。何も言わずただその方の後をついて行くのは余程、思い入れが強かったのでしょう。今の上司の方とは違うのですか」
「今の上司とはあまり親身になって話したことがありません。どうも上手く打ち解けられないのです。ですから余計元の上司が恋しくなったのでしょう」
暫く廊下を歩いて行くと前方左に三人の女子中学生がこちらを見ていた。
「この方たちはどなたですか。あなたに注目しているようですね」
「彼女達は僕の中学時代の同級生です。真中の生徒が僕の初恋の人です」
「え、ちょっと映像を止めてみましょう」心理士は慌てて停止ボタンを押し、モニターに顔を近づけて彼女をまじまじと見つめた。
「可愛らしい女の子ですね。Aさんも全くその頃から隅に置けなかったですねえ。初恋は実りましたか」彼女は結末が気に掛かる様子だった。
「いや、告りはしましたが、実りませんでした。彼女の左にいる目のクリクリした細い女の子に気兼ねしてしまったのです」
「どういうことですか」
「その子が最初、僕のことを好きだったのです。ところが僕は彼女の友達を最終的には初恋の相手に選んだのです。そこで僕は告りはしたものの、以前僕のことを好きだった彼女のことを傷つけるわけにもいかずに結局、二人から身を引いたのです」
「Aさん、女の子に対して細かい気遣いをされるのですね」心理士はほろっとしたようだった。
モニターのコマを送ると文化祭の場面はいきなり途切れ、そこには畳敷きの個室が現われた。
「あっ」とA氏が叫んだ時には目の前には大写しの女性の顔があった。その女性は特に美人というわけではなかったが、男の気を引くタイプではあった。
彼が叫び声を上げると同時に性感感知器のランプが点滅し、ブザーが鳴り出した。モニターには彼女の恍惚とした顔から裸体に近い上半身が映し出されていた。その下半身は陰になり残念ながら良く見えなかった。


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