夢解析器3

その3)
(昨日見た夢)
緑色の扉から中に招じ入れられると、こぢんまりした個室だった。何やら取調べ室のようにも見えた。テーブルの上には両サイドにモニターがついた小型の装置が置かれていた。テーブルの両側には肘かけ付の椅子が二脚あった。
「それではこちらの椅子にかけてしばらくお待ち下さい」そう言って、受付嬢は部屋を出て行った。
「何だ、彼女が面接官じゃなかったのか」A氏はがっかりした。
しばらくすると扉がノックされ、後ろで「失礼します」との声がした。
A氏が振り向くと、そこには受付嬢に劣らぬセクシーな女性が入って来た。
「どうぞ、お楽になさっていて下さい」そう言いながら、彼女はA氏の向かいに座った。
「基本コースをご要望とお聞きしていますが、間違いありませんか」
「はい、その通りです」
「では電極の端子をお身体に付けさせて頂きますので、お身体の力を抜いていて下さい」
小型の電子装置から延びた、何本かのコードの先端にはディスポの電極が取り付けられていた。彼女はA氏の横に立つと、手際良くその電極を彼の額やこめかみ等、主に脳周辺に貼り付けていった。一つだけ残った電極をそっと彼に差し出した。
「これだけは、ご自分で貼り付けて下さい。股間の付け根で結構です」彼女は言いずらそうに顔を赤らめていた。
A氏もつられて恥ずかしくなったが、彼女が向こうを向いている隙に、ズボンにその端子を押し込んで感じる部分の付近に電極を貼り付けた。
「何でこんなところに貼るんですか」彼は気になった。
「理由は後から分かります」それ以上、彼女は何も言わなかった。
「それでは電源を入れて始めます」彼女の手が操作盤に触れ、モニターにも電源が入った。彼は次第に緊張して来た。
目の前のモニターにうっすらと映像が映り始めた。A氏はどこかの演奏会場でエレキベースを弾いていた。
「この映像はあなたが昨夜、見た夢ではありませんか」心理療法士の女性も同じ映像を見ていた。
「正にその通りですよ。昨夜、見た夢そのままです。僕の横で偉そうにして、同じくベースを弾いているのが、何やら先生らしいのですが、誰だか分かりません。他にエレキギターを演奏している二人は、昔の友達だとの感覚はありますが、誰だかは思い出せません。一時停止はできますか」
「はい、では少し止めてみましょう」
静止画にすると彼はギターの二人が、中学時代の友達であると特定できた。当時クラスでギターを弾いて、バンドらしきものを作っていた連中だった。
「何でこのような夢を見たと思いますか」心理士は問いかけた。
「そうですね。バンドを組みたい、人前で演奏したいという願望があるからでしょうね」
「そうした機会はないのですか」
「サラリーマンの今は、全くそんな機会はないです。大学時代にバンドを組んでいたことは確かにありましたがね」
「あなたの願望は人前で演奏するというものですね。それが夢にまで現れたのです」
「それでは小生意気そうなベースマンは誰でしょうか」
「恐らく大学時代、一緒にバンドを作っていた先輩のお一人ではないでしょうか」
「良く分かりますね。僕に先輩がいたことなんて」A氏は驚きを隠せなかった。
「この画像データは瞬時に分析されて、あなたの脳に適合するデータがないかまでも自動的に検索するのです。その結果、あなたの隣のベースマンは、大学時代の先輩らしいとの情報に行き当たりました」彼女はごく自然なことのように説明した。
「私の脳があなたの前で裸にされているみたいですね」A氏はとっさに危惧する経験を思い出した。今日朝方、朝立ちしたのだった。それを彼女に見つからねば良いがと祈った。
「そうです。この機械を使えば、人の心の奥底にある思いがすべて見透かされるのです。あなたも一つ悩みが解決しましたね。バンドを作る夢を実現すれば良いのです」
「え、と言うことは今の悩み解決で、料金が発生したと言うことですか」彼はあっけにとられた。
「そうです。一件落着です」
「今のは悩みなんかじゃないですよ。僕にとってはどうでも良いことだったんです。バンドを組まなくたって、欲求不満にもならずにやって行けますよ。これで料金を取られるのは納得できないなあ」A氏のケチ根性が顕わになった。
4に続く

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