父との遊び

夢診療所１０

その１０）
（駐輪場）
「こんにちは。こちらは正月はないようですね」
「はい、私どもは年中無休なのですよ。正月も夏休みもないのです」
「それはお疲れさまです。夢を扱う商売も楽ではありませんねえ」
「そうですよ。夢は毎日、見るものですからね。その日の内に夢の謎を解きたいお客様が後を絶ちません」
「はあ、今時人気のある商売で宜しいですね」
「ですが最近は夢に関心を持たない方が増えているのです。夢に重きを置かれない方が増えているのですわ。淋しいことです」
「そうですか。夢を見ないのも最近の特徴なんですかねえ。僕も昨夜の夢はほとんど覚えていないのが悲しいのです」
「夢を見ないことを悔やまれるのは、未だ夢を重視していることですわ。夢を見てもその場限りで忘れてしまうのが、一番困ったことです」
「僕は昨夜、夢を見たようなのですが、かすかにしか思い出せません」
「それでも思い出そうと努力することが大事なのです。奥へどうぞ」
受付嬢はA氏を廊下奥の緑の扉へと導いた。
「中に入ってお待ち下さい」言われるままに、彼は検査室でしばらく待った。
やがてノックの音と共に心理士が入室して来た。
「こんにちは、Aさん、お待たせしました。お正月は田舎へ帰られないのですか」
「はい、今年は時期をずらせて、今週末に帰ることにしました」
「そうですか。それでは渋滞に巻き込まれないですね。今日はどうされましたか」
「ほとんど記憶には残ってないのですが、どこかの公園で駐車する夢なのです」
接続の終わったモニターには、公園の駐車場が映し出されていた。
「Aさんは上手く駐車場を見つけられたのですか」
「いや、そもそも駐車場を見つける前に、自分の車をどこに置いたのか分からなくなってしまったのです」
「はあ、それであちこち駐車場を見てられたのですね」
「そうなんです。夢の中でも健忘症が始まったらしいんですよ。困ったものです」A氏は浮かぬ顔をした。
「夢の中では仕方のないことですよ。前後関係もはっきりしませんからねえ」心理士は精一杯慰めた。
「そう言って頂けると一安心なんですが、もう一つ夢の中で混乱したことがあったのです。実は幹線から高速道路への入り口が分からなくなったのです。それで車を右往左往して走らせました。そしてやっとの思いで到着したのが、その公園だった訳です」
「そうですか。最近、現実で似たような経験をされたことはありますか」
「はい、一週間ほど前に首都高に入ろうとして、上手く入れなかったことがあります」
「その思いが潜在意識に残っていたのでしょうね。失敗の思い出は割合強く記憶に残るものです。駐車場を探したことも最近の出来事の中でありますか」
「それが駐車場ではなく、駐輪場を探したことがあるのです。四、五日前、路上にとめて置いた自転車に駐輪禁止の警告ステッカーがいきなり貼られたのです。僕はそこだけは安全だと信じていた場所でしたのでショックを受けました。それから必死で、その近辺で自転車をとめられる場所を探した訳です」
「それで見つかりましたか」
「いや、未だ確実なところは見つかっていません。今どこにとめるかは思案中なのです」
「きっと、その心の迷いが夢の中に現われたのでしょう。駐車場を見つける夢は、その不安を象徴しています。さらに車をどこに置いたか忘れた夢は、路上駐輪した自転車が撤去されたかも知れない不安を暗に表わしてもいるようです。できるだけ確実な有料の駐輪場が早く見つかると良いですね」
「はい、そう願いたいものです。有料駐輪場も満足に作らないくせに、路上駐輪ばかりを取り締まる行政のあり方に腹立たしい思いばかりするんですが、先生に話しても仕方ないですよね」
「そうですね。特に駅前に有料の駐輪場がない地区は困りますよね。区が環境整備をしっかり進めてくれなくては困りますわ。不自由な思いをするのは区民なんですからね」心理士も不満がいつしか高まって来た。
　 １１に続く

夢の検証３４１

夢の続き

家族で鬼ごっこをしていた。そこは街中だったので見つかりやすかった。そこで神社を抜けて隣の公園まで行った。中央の山に登ると鬼になっている次男がこちらに向かって来た。慌てて山を降り自宅に向かった。階段を上りながら姉を追い越した。4階の倉庫に逃げ込んだ。右奥の部屋には楽器がしまってあったので、ギターの陰で様子を窺っていると次男が近づいて来た。

検証３４１
家族で鬼ごっこをするなど２５年前の話だ。街中では隠れる場所もない。神社にはあまり縁がないがお祭りの時は良く行ったものだった。山では息子達が行方不明になった事もある。