試みに会った時

試みに遭った時.jpg
kuwagata.JPG
nice!(0)  コメント(0) 

良太の転機18

その18)
妻の反論
「思い込むって表現、一方的な感じがするわね」温子は怪訝そうな表情をした。
「思い込むという言い方が誤解を招くなら、信じるという言い方をしても良いけどね。いずれにしろ神との関係は個人の心の持ち方一つで決まるんだ。神は目に見えない。だからそのそんざいを証明することはできない。神を否定する者から見れば、神を信じる者は愚かしく見えることだろう。二人の価値基準が全く違うからなんだ。だから気をつけなくてはいけないのは信仰を誇ることは避けた方が良い。妬みを買うことになるんだ。信仰を持つ者は自分だけが神に守られていると信じている。その考えは一種の独善だということに気がついていない。一種の統帥状態に陥っているとしか思えない。宗教は片寄ると非常に危険だと思う。人の判断力を狂わせるんだ。気をつけた方が良いね」良太は温子の信仰に不安な面があるのが気にかかっていた。
「あたしは大丈夫よ。小学生の頃から日曜学校に行って、日曜礼拝は欠かしたことがないからね」彼女は自信たっぷりだった。

良太の言い分
「残念だけどね。信仰は経験の長さとはあまり関係ないんだ。いかに深く心が動かされているかによるんだ。信仰生活が短くても、しっかり神に根ざした生活を送っている者もいる。僕はいかに神との関係強化が精神的安定につながるか解き明かしたいと思ってるんだ。神からの救いは一方的で受動的であると言われてるけど、僕ら人間の方でどんな心構えで神に働きかけをすれば救いがもたらされるかについて興味があるんだ。僕らが神の存在を認め、関係を築いて行くのには実に何段階ものステップがあるような気がしてるんだ」
「そうなの。あたしは何のステップも経験してないわよ」温子は多少誇らし気に言った。
「気を削ぐようだけどステップは多いほど良いんだ。信仰を深めるには魂がどれだけ変化したかの体験が必要なんだよ。僕は一つのステップ毎に魂を少しずつ神に明け渡して来たような気がするんだ。
僕が無神論から有神論に移った時が大きな第一のステップだったんだ。科学だけを信奉して来た僕は目に見えて計測できるものしか信じなかった。ところが20歳の時、行き詰ってその考えを放棄したんだ。それまで僕は僕は2進法、つまり0と1ですべてが解釈できると思って来た。ところが0と1の中間にも何かがあると気づいたんだ。
その時点で僕は自分が抱いていた思い込みを捨てた。科学を使えば我々人間はどんな問題でも解決できるという思い上がった考えも捨てたんだ。その体験は僕が僕自身の一部を捨て去るという試みの第一歩だったんだ。君は自分の一部を捨てたことあるかい」良太は温子を探るように見た。
「いいえ、自分を捨てた経験なんてないわ。だってあたしは初めからクリスチャンだったんだもの」彼女は平然としていた。
19に続く

nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。