人を躓かせる

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良太の転機16

その16)
パン工場での仕事
Nパン工場では夜9時から働き始めて12時に小休止が入った。
「握り飯は好きなだけ食べて下さい。味噌汁はヤカンの湯を注いで各自好きなだけ作って下さい」初日、担当職員から良太は説明を受けた。一つ一つの握り飯は大きく、二つ目に手を出そうという気にはならなかった。慣れて来ると椀に握り飯を入れ、その上から味噌汁を注ぐ、ぶっ掛け飯が彼の定番になっていた。「パン工場なのに何故、握り飯なのか」当初、抱いた疑問は三ヵ月後に体験として答えが提示されていた。
うず高く積まれたプラスチック製の仕分け箱は見上げる程の天井にも突き当たらんばかりだった。「一体どうすれば30段、40段と身長の2倍ほどの高さにまで空箱を積み重ねることができるんだろう」良太の疑問はほどなく解かれた。ベテラン社員の技を見て、彼はびっくりした。彼はいとも軽々と自分の身長ほどに積み重ねられた空箱を、同じ程の高さに積み上げられた空箱の上に移動したのだった。それは驚嘆に値する見事な技だった。「いつになったら、あんな技を習得できるんだろうか」良太は憧れで一杯だった。
空箱を高く積み上げるのは場所を取らないという理由だけによると思われた。ただ誰もが高く積むことに誇りを持ち、その技を競い合ってでもいるかのようだった。空箱はパンを仕分けるために使われた。町のパン屋ごとにプラスチック箱に仕分けされたパンは、そのまま待機しているトラックに積み込まれて行った。工場の荷渡し口からトラックへ伸びたローラーの上を仕分けされたパン箱が快い音を立てながら運び出されて行った。

夢の続き
良太の夢に現われた場面はパン工場外の敷地だった。その敷地から工場の地下室へ通じる通路はトンネルのようになっている。彼は狭い入り口からその身をねじ込むようにして頭から突き進む。真っ暗で閉ざされた曲がりくねった通路で這いつくばって、先へ先へと進んで行く。前方に薄明かりが見え、彼はやっとこじんまりした部屋に辿り着いた。
その部屋ではパンの生地煉り機が騒々しい音を立てて、製品の元を作り出していた。そこで良太は煉り機から出て来たパン生地に手元のアンを入れ、アンパンの元を作ろうとした。ところがパン生地の中にアンはうまく収まってくれない。
中途半端にその仕事は終え、パンを窯に入れる作業が待っていた。窯の近くは焼けるように熱い。その前面扉を開けると火焔が襲って来るような勢いだった。良太は前髪のこげる臭いを感じながら、急いでアン生地の乗った鉄板を窯の中へ押し込んだ。そして扉を閉めた。顔はほてったままだった。良太はその場を逃げ出したかった。でも出口は見つからない。入って来た時の狭い穴がどこにも見当たらないのだ。彼はそこら中を右往左往し、パニック状態に陥った。その途端に眼が醒めた。
17に続く
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