責任切った

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良太の転機15

その15)
仕事選びの基準
確かに良太の仕事選びの基準は水沼のそれとは全く違っていた。正反対とも言えるほどのものだった。良太は救いを経験してから先ず念頭に置いた考えは「悔いのない毎日を送る」というものだった。「一日一日、一瞬一瞬を有意義に生きる」というものだった。そこには金儲けや地位・名誉などの言葉が入り込む余地はなかった。そうした成功という言葉で一括りにされる状態は良太にとっては目的となり得なかった。飽くまでも有意義に生きた結果として与えられるべき勲章でしかなかった。従って勲章が与えられるがどうかは、さして問題とはならなかったのだ。

パン工場の夢
その晩、良太は夢を見た。水沼と会った後は精神が高ぶってしまうのか、必ずと言ってよいほど夢を見た。その時の夢には以前、彼が勤めていたパン工場が出て来た。当時、彼は最悪の精神状態にあったと思う。試練の中にある時、人は自分がどんな状態にいるか客観的に見ることはできない。渦の中に巻き込まれた人間は渦から抜け出すのに精一杯で他の事は考えられないものだ。
鶴川の駅前からNパン工場へは送迎バスが出ていた。夜9時からのシフトに間に合うように30分間隔で何本かのバスが走っていた。8時30分の送迎バスに乗り遅れると市営バスを使うかタクシーをひろうかしかなかった。タクシーに乗ったらアルバイト料の十分の一以上が削られるので、それだけは避けたかった。市営バスは時間が当てにならず、9時に間に合うとは限らなかった、遅刻でもして日給を削られるのも痛かった。
良太は早目に鶴川駅に着くように努めた。それには、掛け持ちでバイトをしていた大森ボールでのアルバイトを定時で切り上げねばならなかった。彼はボーリング場の一角にあるゲームセンターの管理を任されていた。定時で上がるためには交代要員の石井が出勤して来るのを待つしかなかった。彼はボクサーくずれで喧嘩っ早く、対応次第では危険な人物ではあった。良太は下手に出るこつを身につけ、上手く危険を回避していた。
良太が掛け持ちでバイトをしていたのには訳があった。大学生活4年目の彼は中退を考えていた。既に大学に対する未練は残っていなかった。時間を無駄にせず、一刻も早く実社会へ飛び出したいという気持ちに溢れていた。22歳の夏、彼は夜の闇を克服したかった。良太にとって夜中は魔の時間帯だった。皆が寝静まった丑三つ時には言い知れぬ神秘を感じていたのだった。{夜中には自分の知らない何かが起こっている}彼は好奇心をそれ以上閉じ込めて置けなかった。{夜中の仕事に対する憧れ}が最高潮に達したのがこの夏だった。
16に続く

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