怒り変換機7

その7)
「では、その場面を音声入りで再現してみましょう」心理士はキーボード操作で画面を設定した。
「今、ホスピス献金使用について3つの要望が来ています。一番大きなのはS医師からの要望でハンディーエコーの購入です。見積りで100万円位ですが、一週間ほど試用したいと言うので日時を交渉中です。2年越しの要望であるので断り切れないところがあります。何しろ一度、言い始めたら諦めない先生ですので、いずれ正式に稟議で回ることになります」
「そのハンディーエコーは診療に必要なものですか」A氏の正面にいたT次長が質問して来た。
「はい、ホスピスでは体内に管を通す時にその先端が臓器を傷つけないか確認するために使用するそうです」モニター横のスピーカーからA氏の声が響いた。
「ホスピス献金だからと言ってホスピスの医師が優先されるのは問題なんだよね。ホスピスでもらった献金でも病院のものなんだから、各病棟で使われなくちゃいかん。このハンディーエコーにしてもS医師だけでなく他の医師も使えるようにして、ホスピスが独占することがあってはいかんのだよ。Tセンター長にも未だ諒承を得た話ではないんで、稟議を通して正規のルートで確認せなあいけないよ」U事務長は怒気を含んだ口調でまくし立てた。
彼が話し始めて暫くすると怒りを示す赤ランプが点滅し続け、「ピー、ピー」という音が途絶えることは無かった。
「僕は見積りを診療部に渡して診療部長を通して稟議を起こしてもらう積もりでいます」
「購入申請も慎重にせないけないが、購入後もホスピスに置いたままでS医師が独占するようなことがあるといかん。ロジスティックがしっかりしてもらわんといけない」彼は言いたい事だけを言った。
余りにも警告音が「ピーピー」鳴り続けて止まないので心理士は一旦、画像を休止した。
「このロジスティック課と言うのがAさんの所属部署ですか」
「このUさんはあなたとあなたの部署を責め立てていましたね。そもそもS医師はAさんにどのような依頼をされたのですか」彼女は経緯を知る必要があると感じた。
「はい、もう1ヶ月以上前に直接S医師から中古のエコーを探してほしいと頼まれたのが発端です。その時、彼ははっきりとU事務長の承認を得ていると話していたのです。僕は彼の言葉を信じて中古品を探しましたが、適当な機種が見つかりませんでした。予算は100万円以下と言う事でしたので、その価格で新品も当たったのです。するとN社から適当な機種の紹介がありました」
「それでしたら当初からUさんはこの件について知っていたのではないですか」心理士は不可解な表情をした。
「そうです。U氏がS医師に口約束したとしか考えられません。それにも拘らず連絡会では手の平を返したかのように、ホスピス献金をホスピス医師に使わせるロジスティックはけしからんと言う言い方をしたのです。僕はこの出来事も忘れないでしょう」
「Aさんも恐るべき経営者の下で働いておられるのですねえ。彼との係わりはこの2回だけですか」
「はい、直接の係わりは2回だけだと思います」
「直接とおっしゃいますとそれ以外の係わりもあるのですか」
最終回に続く

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青い鳥

青い鳥

人は青い鳥を求めて旅に出る。女性にとっての青い鳥は異性との心の結合だが、男の青い鳥は異性との身体の結合である。双方全く噛み合わない。男は秘境の温泉に行き期待して混浴露天風呂を目指す。ところがそこに待ち構えているのは老人の集まりである。旅に出て僥倖を手に入れるのは皆無に等しい。
実は寓話のように青い鳥は身近にいる。最近は出会い系サイトで相手を見付ける手段が増えたが、出会い系サイトは男女双方にとって危険が多過ぎる。何の保証もないからだ。それなら既に既成事実となった出会いの場所を選ぶ方がましだ。当然、男に支払いの義務が生じるが、お互いが受ける利得に対する代償の多寡を考えたら致し方ない事だろう。

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