前哨戦10

その10)
こうして木箱にモニターや電源・基板が据え付けられると其れらを配線する。配線した段階で束ねられたビニール線を木箱内面の板に固定する為にビニールクリップで留める。其の際に木ネジを使用する。
其の工場に若手のA君がいた。恐らく20歳台そこそこで僕よりも若かったと思う。彼は唯一の社員であり、他のパートの人達は年がいっていたので彼の存在は際立っていた。
彼は馬車馬のように働いた。或いは何かに憑かれたように働いた。作業ペースが人の2倍ほどにもなるので目まぐるしく狭い工場内を動き回った。一時も止まる事無く、常に走りながら仕事に没頭していた。
A君のネジ留めは独特だった。束ねたコードをナイロンクリップで板に留める際に彼は先ず手で鷲掴みした木ネジを口に含む。初め彼の左頬が膨れているので虫歯かなと思ったほどである。
彼は口からネジを一つずつ摘み出しながら束ねたコードをナイロンクリップで板にねじ込んで行く。何故そんな事をしたのか。ネジ袋に手を突っ込む手間を省いたのだ。そこまで効率性を追及していた。
涎にまみれた木ネジが滑るのではないかと心配したが、I君は効率的に素早く作業をこなして行った。木箱にすべての部品が組み込まれるとゲーム機に電気が流され、動作チェックがなされた。
社長が先に立って動作チェックを行なったが、社長に信頼されていたI君も動作チェックの担当だった。動作チェックではじかれた機械は手直しが加えられた。手直しも主にこの二人によって行なわれた。
すべての機械が完成するとメーカーTから二人の社員が最終確認の為に派遣されて来た。朝からチェックに入り午前中には終了した。そして昼を食べて帰るのであった。
彼らの食べる昼食は出前のランチが振舞われた。其の日のメニューはハンバーグ定食だった。ゲーム機チェックも順調に終わり、社長とメーカーの二人が歓談の内に食事を進めていた。
僕は少し離れた所で昼の休憩を取っていた。其の時、彼らの一人が素っ頓狂な声を上げた、「ハンバーグに歯が入っていたぞ」皆が彼に注目していた。手には歯のかけらだか詰め物らしい物が掴まれていた。
この時は普段冷静な社長も慌てていた。三人ともそれ以上食事が出来なかった。其れは未だ半分も食べ終わらない時点で起こった出来事だった。「さあ、皆で外に食べに行きましょう」と社長は席を立った。
後に残った僕らはそれぞれに口を開いた。「あれはあの人の歯が抜けたか、詰め物が取れただけだよ」他の誰もが其の意見に同意していた。後から社長本人が其れを強く主張していた。
機械の最終チェックが終わるとすぐに大型トラックが回されて来て機械の積み出しが行われた。其のトラックには替わりに新しい空の木箱が積み込まれていて、完成品と入れ換えて積み下された。
そしてまた新たなサイクルが繰り返された。
11に続く

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理系女子の歪み

理系女子の歪み

男は理系に向き女は文系に向いていると言われる。根拠はある。男は動体視力に優れ変化に強い。数学や物理で有力な要素となっている関数は変化を可視化し、未来を予測する手段を提供してくれる。動体視力にせよ変化に敏感な記憶は脳の表層部で活発に作用する。
逆に脳の深層部で活発に作用する記憶がある。言語にまつわる記憶だ。言語能力を磨くには同じ刺激を何度も繰り返し定着させるしかない。母に特有な能力で赤ん坊に言葉を覚えさせるには不可欠の要件だ。男には同じ言葉を繰り返す忍耐力はない。男と女の能力は根本的に違うので女が男の領域に立ち入ろうとすれば歪みが生ずるのは必至である。

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