前哨戦5

その5)
大学時代には軽音楽部に入っていたので、ステージに立つバイトをしたことがある。その場所は東中野にあるN閣という結婚式場だ。そこで毎夏、バイキングが行なわれた。
そのバイキング場に設えられたステージで演奏するのが仕事だった。夏、1ヶ月稼いだ金は皆で山分けした。30分のステージが3、4回あった。その間には他の出し物が挟まれた。
ある時、楽屋にいると何と林家三平師匠が現われた。有名人を間近で見て、僕はドギマギした。テレビで見るのと同じで、いつもにこやかで周りを笑わせていた。
ステージの合間に夕食が出たが、無論バイキングなどではなく簡易な夕食だった。演奏が終わって夕食を食べに行く時、バイキング場の壁際に並ぶ従業員の横を通ると一人の女性から「お疲れ様」と挨拶された。
其の女性は僕らより少し年上らしく落ち着いていた。浴衣姿が良く似合い、妖艶な色香を漂わせていた。僕が前を通った時に挨拶されたので、仲間達は羨ましがっていた。
僕は其の人を意識するようになった。演奏中でも視線を感じたことがあった。そして何かが起こることを期待した。ところが恋の期待はいつもそうであるように何の結果も生み出さなかった。
同じく恋に何かを期待しながらいつも実らない仲間達は、ある年、夏の合宿で大胆な行動に出た。同じペンションに泊まっていた某女子大のキャンプファイアーに強引に参加し、一時を共に過ごした。同じく大胆になった僕もメガネを外し、フォークダンスの輪に加わった。
するとラッキーなことに一人の活発そうな女の子が僕の隣りへ来てフォークダンスを踊った。音楽が一しきり終わった後も彼女は視線をこちらに投げ掛けていた。僕が話し掛ければ、何か起こったかも知れなかったが、僕には勇気が足りなかった。
その合宿で僕は仲間にムスコの短小を見られてしまった。同じ風呂に入ったことが原因だったが、其れ以降、後輩からも陰口を叩かれた。僕は仲間達と余り上手く行っていなかったらしい。
同級の一人はTといいフルートを吹いていたが、リズム感に乏しく閉口した。ドラムを叩いていた僕は彼の演奏にイライラしていた。しかも酒癖が悪く、合宿途中の列車内でも管を巻いていた。
彼らとのトラブルは思い掛けない出来事から起こった。ある日、大学バンド振興会の男が練習中の僕らを尋ねて来た。彼はバイト先の斡旋をしてくれる大事な人物だった。N閣もバイトも彼の斡旋によるものだった。
彼は楽器が出来ないくせに注文が多かった。僕のドラミングにも文句を付け出した。其の時まで大人しく見られていた僕は鋭く反抗した。「そんなに注文をつけるなら俺は降りる」と言い残してその場を去りかけた。
するとその男は急に態度を変えてこう言った、「君が降りればみんなバイトを失うんだよ」「そんな事、構うもんですか」僕は言ってやった。仲間達は黙って呆然としていた。
遂に其の男が折れた。「分かりましたよ。其のドラミングでやってくれれば良いです」仲間達は安心したようだった。僕も内心、ステージバイトの首がつながってホッとした。
6に続く
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ホスピタリティの逆転

ホスピタリティの逆転

男女のスキンシップを奨励する業種では女性側のホスピタリティが重要視されている。基本的に人間社会では男女の交わりに於いては男がホスピタリティを多用する。その分、女性は受け身に徹している。この状況は女性の安全性が完全に確保されている条件の元で成立する。
ところが商売ではどんな客の相手をするか分からないので完全な安全性が保証される訳ではない。特に安価な商売の客ほど危険性は高い。従って男女のスキンシップに於いて女性が主導権を握らざるを得ない。客層が高級になるに連れ、女性側の安全性は保証されるので男は最終的に主導権を握る事が出来る。つまり高い金を払ってホスピタリティを買い取るのである。


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