長いトンネルの向こう3

その3)
 次の日曜日、御嶽山にハイキングに行った。疲れを癒すために計画したのだが、加代は必要以上に元気だったのが印象的だった。会う人、誰とでも気さくに挨拶を交わしていた。普段の彼女にはあまり見られない特異な情景だった。
 翌月曜日、聡史は職場を休んで加代を医者に連れて行った。そこでも彼女はいつになく快活で、医師が舌を巻くほど積極的に喋っていた。薬を処方してもらい、途中一緒に食事もして家に帰った。薬を飲む彼女を見て、聡史は安心して床についた。
 次の日、聡史は普通通り出勤したものの、帰りは駅前で軽く夕食を取って、ゆっくり目に帰宅した。聡史は家に帰るのが億劫になっていたからだ。家に近づくと付近が物々しい雰囲気に包まれていた。遠目からでもパトカーの点滅ライトが眼に飛び込んで来た。
 聡史は慌てて自転車ペダルのこぎ足を早めると、やがて歩道の上に人だかりがしているのが見えた。家の前に自転車を止めると、早々に私服刑事の一人がつかつかと聡史に近づいて来た。
「奥さんが大変な状態なのに、あんたは今までどこにいたんだ」
「私は途中、軽食を取って来たところです」
「こんな状態の時によく職場へ行けるものだ。あんたの奥さんが立てこもっていて、誰も中へ入れないんだ。あんたも今晩はどこかへ泊まるか、我々が保護してあげよう」
「とにかく中へ入らせて下さい。妻と直接話がしたい」
「今入るのは危険だ。床には物が散乱しているし、奥さんは何をするか分らない」
 聡史は刑事や姉の制止を振り切って、勝手口から入って行った。
「くれぐれも気を付けるように。何かあったらすぐ戻って来なさい」
 刑事の声を背中で聞いて、聡史は薄暗い室内に足を踏み入れた。確かに辺りには物が散乱し、足の踏み場がないほどだった。その中を手探りで進み、さらに廊下を抜け二階へ続く階段に辿り着いた。そこにもバリケードがしてあった。聡史は暗闇の中で声を掛けた。
「加代、加代、いるなら開けてくれ。私だ」同じ声掛けを二度した後、階段に作られたバリケードの奥から返事があった。
「あなたなの。一人だけ。誰もいないの」加代は確かめるように聞いてきた。
「ああ、私一人だ。バリケードを開けてくれ」
 加代はやっと納得してくれたようだった。バリケードの隙間が開いた。聡史はその隙間から身体をねじ込んだ。
「早く上がって来て、警察が来るわ」と言いながら、彼女は急き立てて聡史を子供部屋まで招じ入れ、扉を閉じた上に、さらに箪笥から抜き出した引き出しを扉の前に積み重ね始めた。聡史はその時点で加代は正気を失い、被害妄想に侵されていると確信した。だからと言って、聡史自身その場から離れはしなかった。加代と子供と一緒にいたかった。
 部屋の窓にはカーテンがかかった上に毛布がかけられ、外部とは完全に遮断されていた。電気も消され、真っ暗な中で加代の異様に輝いた眼だけが光っていた。そのまま二段ベッドに目を凝らすと、子供二人はぐっすりと寝入っていた。ところが後から聞いた話によると、下の子は薄目を開けて一部始終を見ていたらしかった。
 真夏だというのに、部屋の中は真冬のように冷房が効いていた。聡史は思わず身震いした。さらに次の加代の言葉には身の毛のよだつ響きが感じられた。
「あなた、裸になりなさい」その声は威圧的で反抗を許さない口調だった。右手には何か光るものを持っていた。どこから持って来たのか、息子が学校の技術で使ったノコギリが右手に握られていた。
 聡史は言われるままに上半身裸になって壁を背にして立った。さらに鋭く加代の声が響いた。
「下もよ」聡史はズボンも脱いだ。冷房の寒さで聡史は身体が震え始めるのを感じた。いきなり彼女はノコギリの歯を聡史の胸元に押し付けて来た。聡史は祈りながら平静さを保つのがやっとだった。
「イエス・キリストの十字架を味わいなさい。十字架の痛みを味わいなさい」
 聡史は胸に痛みを感じながらも不思議と死に対する恐怖はなかった。されるがままに身を委ねようと覚悟を決めていた。興奮状態の上、まるで悪魔が乗り移ったかのような彼女に逆らっても逆効果だと感じてもいた。祈る中で、聡史の頭には過去に体験した加代との諍いが走馬灯のように駆け巡っていた。
4に続く

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夢の検証315

夢の続き

惣菜店でおかずを選んでいた。隣にはB病院のKさんがいてレンジから直接に買い物を済ませていた。隣のレンジには肉ジャガがあったので少し温め直しパックに詰め精算をした。外に出てオープンカーに乗ろうとしたら知り合いの不細工に出会ったので無視する事にした。暫く車を走らせると渋滞していた。前に出ようとしたら入るスペースがなくバックした。ギアチェンジが上手くいかなかった。
昔の家の前で近所のMさんが家の自転車を移動していたので文句を言った。後から確かめると父親が頼んだ事だと分かりMさんに謝ろうとしたが機会が?めなかった。向こうでHさんがダンボールの解体作業をしていたので手伝ったが既に終わり掛けていた。年の瀬で業者が来ずイライラしていた。やがて防災訓練が始まってそれに参加した。

検証315
総菜屋に行ったことはない。レンジとは何だったのか思い出せない。B病院のKさんも不明だ。訳の分からないのが夢の特徴だがこれは少し酷過ぎる。
自転車を家の前に置いているのは確かだが近所のMさんとは一体誰なのか不明だ。久々に父親が出て来たので懐かしい。父親がしたことなら仕方のないことだ。Hさんとは恐らくB病院のHさんだろう。

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