農業体験

あたしはやっと家に辿り着いたの、でも夕食の仕度をする気になれなくて寝室でテレビを見ていたわ。10時になっても夫は帰って来ない。あたしは心配で胸がドキドキして来たの。テレビで放映していた{天国への門}というアニメがさらにあたしの不安を掻き立てたわ。
「パパ、早く帰って来てよ」と叫びたくなった瞬間に夫が帰って来た。
あたしはすぐに出迎えに行かなくちゃと気持ちははやったけど、腰が抜けたみたいに足腰が立たなかった。ついに夫がやって来たわ。
「ただいま、遅くなってごめん。残業があって、その後、仲間と食事をしたもんだからね」あたしはその声を聞いて安心したわ。
「おかえりなさい。ずっと心配してたのよ」あたしは重い口を開いた。
「早かったんだね。旅行はどうだった」夫の声が何故かうつろに響いた。
「ええ、疲れちゃった。何もする気がなくてテレビを見てたの。そしたらね、天国へ行く話しをしてたわ」
あたしの頭は旅行のことよりテレビの内容のことで一杯だった。何故かって、あたしの両親が二人とも病院に入院してるんで、天国や死の話題が身近になってしまったの。
「おい、お前、大丈夫か。何かボーとしてるぞ」夫の声が急に耳に響いた。
「そうなのよ。あたしの頭がボーとしてるのよ。あなたが天国に行きはしないかと心配なのよ」
「お前の話すタイミングが少しズレてるな。何で答えにそんなに時間をかけるんだい。しかも言葉と言葉の間隔が開き過ぎてるのが気になるなあ」
あたしは夫の言ってる意味がその時、分からなかった。あたしは普通に喋っていたつもりだったけど、舌がもつれてたんだと思うの。
あたしは最近、分かったんだけど、外からの刺激に敏感に反応しやすいタイプらしいの。ある事を考えていて外から新たな刺激が入って来ると、前の事が頭から抜けちゃうんだわ。つまり一時に一つの事しか考えられないようなの。さそり座だから一途ってことかしらねえ。集中力があるってことかしら。でも外からの刺激で興味の対象がコロコロ変わってしまうのは飽きっぽいとも言えるかもね。あ、いけない、あたしはまた自分の世界に入ってしまったわ。
「おい、大丈夫、しっかりしろよ」ほら来た。今は夫の相手をしなくちゃいけないわ。
「地上から天国には長い階段が続いているのよ」あたしは頭に浮かぶままを話した。
「それより新潟の農業体験はどうだったんだい」夫は少しイライラして来たみたい。
「あ、それね、疲れたわ。あまり眠れなかったの。環境が変わるとあたし眠れないのよ」
「それなら今晩は早く寝なよ」夫の声が強制のようにも聞こえたわ。
「じゃ、おやすみ」あたしは本格的に寝ようとして床についた。でも目が冴えてなかなか寝つかれなかった。眠ろうと焦れば焦るほど頭の中にはイメージが膨らんで来るの。天国への階段を登った人はどうなるんだろう。天国って一体どんなとこだろう。様々な疑問が次から次へと湧いて来るのよねえ。眠りたいんだけど神経が高ぶって眠れないのは苦痛よねえ。
「何で眠れないの、何で眠れないの」ってあたしは自分に訴えかけたんだけど結局、諦めたわ。眠れないんだったら起きて、部屋の片付けか箪笥の整理でもしましょう。あたしの頭は朦朧としていたけど「何かしなくちゃいけない」という脅迫観念にでも取り付かれたように、先ず箪笥の整理を始めたわ。整理したからってどうなるってもんじゃないけど、何か手でも動かしていなけりゃやり切れないのよねえ。
「こんなあたしをどうにかして」って叫びたくもなるんだけど、あたしはこらえたわ。夏なんですぐ朝が白々明けて来たわ。またあたしの苦手な暑い日差しが照り付けて来るのよ。新潟の日差しで頭の神経が切れたのかもね。頭のもやもやがいつまで経っても取れないのは旅行から帰った後よ。旅行前は秋の空のようにスッキリしてたの。それが急に梅雨空のような頭になったのはどうしてよ。誰か教えて。
あたしは以前はこんなではなかった。頭の中の収拾がつかなくなったのは、一つには今回の新潟農業体験でしょ。もう一つは2年前に事故に遭った両親が原因してるのよ。事故の怪我はとうに治ったんだけどね、未だ退院できてないの。それはね、内臓に悪いとこが見つかったからよ。その治療を続けてるんだけど、あたしとしちゃあ、いつ急変するか心配だったの。
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ワクワクとドキドキ

ワクワクとドキドキ

近々なにかしら良いことが起こりそうな期待感がワクワクであり、何が起こるか分からない不安感がドキドキである。ドキドキよりワクワクの方が好ましいが、ドキドキのないワクワクは有り得ない。良いことだけが起こる事象は極めて稀であり、良いことと悪いことは同時に起こる事が多いのである。
従ってワクワク感だけで期待を膨らませるのは危険が多い。他人と初めて会うのは緊張する。特に相手方異性の場合は特別に緊張する。ワクワクもするがドキドキもする。初対面の相手と上手く話せなかった場合の不安感が常に付き纏うからである。特に相手に興味がある時には失敗を避けたい思いがドキドキ感を増すのである。

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