怒り変換機4

その4)
「えー、一番の対象は新任のU事務長でしょう。もう一人は診療部のK医師です」
「対象がはっきりしておられるのなら対策は立てやすいかも知れません。過去に画面を戻して先ずK医師との係わりを精査して見ましょう」
モニター画面の日付けは去年の10月20日、ちょうど1年前に戻っていた。病棟のナースステーションにあるシャーカステン前に座ったKと思われる医師が口をとがらせ口角泡を飛ばしていた。
「病院で人件費を削るとしたら事務系かコメディカルしかないでしょ。看護師も我々医師も法律で必要人員が決められてるんだから削りようがないんだよ。あなた方、事務職でもう少し合理化案を練ったらどうなの」それだけ言うとK医師は再びシャーカステンに貼られたレントゲンフィルムの解析に没頭した。
「何と一方的な意見なんでしょう。Aさんはこの時、何を話されたんですか」心理士は他人事ではないようにK医師の態度に腹を立てていた。
「僕はこの時、意見打診していただけなのです。半年後の診療報酬改訂を期に収入減が見込まれていた折、70%以上の人件費をどうすべきか打診していた訳です。彼の反応は剣もほろろでした。先ずこの病院は他の病院より安定しているし、これからも収入が落ちることはないと楽観的に豪語しました。そして自分を含めた医師給の低さ、看護師給の低さをとうとうと開陳し始めたのです。今でも安過ぎると主張するK医師の前では僕の唱える『職員全員5%給与カットで乗り切ろう』とのスローガンは全く風前のともし火に等しかったのです」
「私も医師の端くれではありますが、概して医師は欲が深く傲慢な人種だと思いますわ。まるで自分が神のような立場で病人を治していると錯覚している者が何と多いことでしょう」彼女は苦渋で顔を歪めた。
「先生のような方ばかりであれば僕は医者嫌いにならずに済んだと思います。本当に医師とは一般的に鼻持ちならない連中の集合体だと思います」
「Aさんはこの出来事以降K医師に対する怒りを募らせている訳ですね。ご覧なさい。当時の記憶を呼び起こした途端に怒りの赤ランプが点滅し始めましたわ」モニター横では赤ランプと同時にブザーが「ブーブー」鳴り始めてもいた。
「僕は彼らの年俸が僕らのボーナスと同じように削られるまでは怒りが消えることはないでしょう」
「でも、その医師のためにAさんが悪感情を持ち続けるのは損な話ですねえ。怒りのエネルギーはマイナスエネルギーとして働き、知らず知らずの内にAさんから活力を奪うのです」
「では僕はどうすればその呪縛から逃れられるのですか」A氏は縋りつく思いだった。
心理士は答える代わりに机の上のキーボードを打ち込みながら機器横のソケットにICチップを差し込んだ。画像は少し前まで戻り、K医師の頭部が限りなく拡大されて行った。遂には脳内部が透視され、言葉では表現されなかった思考映像が解析された。
「ご覧下さい。この映像がAさんに初めて詰め寄られた時にK医師の脳内に想起されたものです」
「はあ、今挿入されたICチップに何か秘密が隠されているようですね」
「おっしゃる通りです。このチップは高度な解析能力を秘めています。画面に拡大された人物の表情から脳内に発生すると考えられる感情を察知します。感情を制御する扁頭核の基本パターンがチップに予め書き込まれているのです」
「先生ちょっと専門的過ぎて理解が及ばないんですが、扁頭核って言うのは扁桃腺とは別物ですか」
「扁頭核とは脳内にある神経組織の一つです。記憶を助ける海馬の隣りにあるのです。今、画像を切り換えますとK医師の扁頭核がシミュレートした画像が映し出されます。これがAさんを怒りの呪縛から解くきっかけになれば良いと考えています」
5に続く


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夢の検証317

夢の続き

古い家の2階に級友のNが来ていた。T塾の講師も来ていて英語を習っていた。途中から眠くなり起きたら授業が終わっていた。講師もいなかった。遅いのでNが泊まることになった。寝床を整えて別々に寝たら夜中にNが寝床に入って来て怪しい事をし出した。
修学旅行で帰りのバスを待っていた。お金を節約して買い食いもせずお土産も買わなかった。昼食の時間なので窓際の席につくと左隣に次男の友達の水沢君が座っていた。皿の上のうずら豆を物色していたので警戒した。食パンにジャムが塗ってあった。食べると胃もたれが起きた。

検証317
小学校の友達とT塾の講師が入り混じって登場した。英語を教える側ではなく習う側に回ったのは不思議なことだ。
修学旅行では良い思い出はない。でも夢では集団旅行が出て来るのは何故だろうか。昼食をバスの中で食べるのも経験がない。

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怒り変換機3

その3)
「これはAさんの目尻につけたセンサーが検知した悲しみによるものです」モニター横の青ランプが点滅しながら低い「ブーブー」という音が響いていた。
「一体、何が起こったんですか」A氏は腑に落ちないようだった。
「これであなたの感情が怒りから悲しみに変換されたということです。怒りとは自分の立場でしか物事を見ない時に発せられる感情なのです。この装置を使ってAさんは相手の立場からご自分を見る機会が与えられたのです。相手の立場に立つことで、あなたの行動が客観的に見てどのレベルのものだったかがはっきりした訳です。あなたはそこで初めて反省することができたのです。反省してAさんがご自分の非に気づかれた段階で怒りは悲しみに変わっていたのです」
「そういう仕組みなのですか。もう一つ怒り心頭に達する出来事があったんですがねえ」A氏は顔を曇らせた。
「それは一体、何ですか」心理士も彼の只ならぬ雰囲気を察知して緊張した。
「僕は経営陣と医師に対する怒りで胸が張り裂けそうなのです。この夏のボーナスが下げられたのです。病院の売上げが下がっているというのが経営陣の言い分でした。でも6月までは思ったほどに落ち込んではいませんでした」
「経営側の思惑は何なのですか」
「この4月に診療報酬の改訂が行なわれました。そこで入院での点数が激減したのです。うちのように療養病棟が大半の病院は大打撃を蒙ることになるのです。何故なら療養病棟の入院費がほぼ半減するからです」
「その影響はいつ頃から出始めるのですか」彼女は事の重大さに気づき始めていた。
「はい、7月以降打撃が大きいと予測されていました」
「なるほど、それを見越して経営陣は夏のボーナスから抑えにかかった訳ですね」心理士は経営陣の意図する目論見の概要を少しずつ掴み始めていた。
モニターには広い部屋に職員が多数集まり、正面に立っている数人の者たちから説明を受けている場面が映し出された。
『2ヶ月の要求に対して1.5ヶ月とは余りにひど過ぎる。管理職と医師の給与は年俸制で満額確保されているのに僕たちだけが売上げが下がりそうだという理由だけでボーナスカットされるのは納得できない』モニター横のスピーカーから良く聞こえる声で訴えが響いて来た。
「抗議されてるのはAさんですね。Aさんも見かけによらず強い口調で訴えられるのですねえ」彼女は感心しA氏を見直すようにして彼の顔をじっと見つめた。
「先生、そんなに見つめないで下さいよ。僕だって怒りが極まればこの位のことは言いますよ。これでも腹の虫が収まらなかったぐらいです」
「ここはそもそもどこなのです」
「ここはカフェテリアと呼ばれ主に職員用の食堂として使われています。ボーナス交渉時期には組合員の待機場所として使われるのです。この時、僕は初めて顔を出したのです。この時のボーナス闘争の厳しい事が予想されていたからです」
「初めて出られた割には思い切ったことを言われたようですね」彼女はA氏の気持ちを慮るように話を進めた。
「はい、始めはそこまで言うつもりはなかったのですが、次第に感情が高まって来ました。発言する前は胸がドキドキして言葉が口から出るか心配でしたが、話し始めると言葉が次々と示されて来たのです」
「Aさんの心にもそれまでに言い知れない鬱憤が溜まっていたのでしょうね。鬱憤の鉾先は一体どなたなのでしょうね。心当たりはありますか」
4に続く

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肉体の触れ合いと心の触れ合い

肉体の触れ合いと心の触れ合い

異性との肉体の触れ合いは二、三度続ければ飽きが来る。ところが心の触れ合いはそこから始まる。肉体の触れ合いは単発的に処理出来るが、心の触れ合いは永続的である。前者は単純に生理的欲求から 発するが、後者は淋しさから発するから厄介なのである。
心の淋しさは独身で異性との係わりがない者、或いは既婚者でも夫婦の交流がない者に特有な性情である。肉体の触れ合いが即、心の触れ合いに繋がる訳ではない。中には前者の積み重ねが後者を自動的に誘引すると誤解している者がいる。相手の心を引くために贈り物をしたり、手紙をしたためたりする。相手にとっては迷惑な場合も多い。

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怒り変換機2

その2)
「ふーん、流れは何となく分かりましたが、それで怒りが悲しみに変わるもんですかねえ」A氏は半信半疑な様子で腕を組んでいた。
「先ず実際の事例をもとにご説明した方が分かりやすいかと思われますので、セッティングを始めます」彼女は彼の返事を待たずに強引にもセンサーを彼のこめかみに付け始めた。
「うあー、いきなりですか。先生も気が早いですねえ」A氏は驚きを隠せなかった。
モニターには幹線道路を逆走している場面が映し出されている。そして道路脇に駐車中の大型ダンプの左横をすり抜けようとした瞬間、向うから走って来たサイクリング車の若者から「危ないぞ」と声を掛けられた。その時A氏のこめかみにセットされたセンサーを通じて怒りが検知され、心理士の手元の検知器が赤ランプ点滅と共に「ピッピッ」と音を立てた。
「Aさん、あなたこの時、一瞬ムカッとしましたね」
「はい、その通りです。僕は自転車でそこを逆走してたのです。歩道は歩行者が一杯で通れなかったのです。逆走すれば車が向うから走って来るので安全なのです。ところが三車線の通りに駐車している車が多かったのです。実質二車線を自動車が走り、僕は向かって来る車と駐車している車の間をすり抜けて走っていたのです」
「聞いているだけで恐いですねえ。自転車オンチの私には到底できませんわ」
「その時、向うからバイクに混じって競輪車に近い自転車とニアミスをしそうになったのです。そこで相手が小声で「危ないぞ」とか言ったのを耳にしました。それを聞いて僕は腹を立てたのです」
「それではAさんから見た場面を相手から見た場面に切り換えてみましょう」彼女はボタン操作で上手く画面を切り替えた。
「へえ、そんなことができるんですか。不思議ですねえ」A氏は盛んに感心していた。
「この機能が新開発の技術なのです。Aさんが焦点を当てられた自転車の相手の眼を基準としてゼロセッティングするわけです。そしてデジタル処理された画像に定点変更をかけた画像を映し出してみましょう。少し巻戻しをかけますよ」
モニターには車の流れに乗って走っている映像が映し出された。左車線は駐車の車に埋め尽され、その右側を縫うようにして走っていた。前方左側に大きなダンプが駐車していて、その向うからA氏の乗った自転車が逆走して来た。彼の自転車と身体はある程度はっきり見えるのだが、顔の部分がぼんやりとしていた。
「先生、僕の顔が薄ぼんやりしているのはどうしてですか」A氏は不審に思った。
「それはあなたの眼からはあなた自身の顔は見えないからですよ。デジタル画像処理をするとしてもデータ自体が取れないのです。そこでぼんやり画像で補うしかないのです」
ぼんやりした顔のA氏の自転車は駐車していたダンプと流れる自動車の間をすり抜け目の前、左側をスレスレに通り過ぎた。
「Aさん、こちら側から見ると随分、危ない運転をされてますね」心理士は冷や冷やしながら、その映像を見ていた。
「はあ、相手の眼から見ると僕の運転も無謀なところがあったんですねえ。あれ、何か変な音がしますね」その音は次第に大きくなった。
3に続く

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能動的そして受動的性感帯

能動的そして受動的性感帯

性感帯は普通、受動的と考えられている。女性を想定しているからだ。確かに女性の性感帯は全身に張り巡らされている。一方、男は局部的だ。能動的性感帯とは道具としての機能も併せ持つ。指先、唇、舌などである。これらは相手の性感帯を刺激しつつ自身も快感を味わっている。更に男性自身も能動的そして受動的性感帯の機能を持っている。
男は目から刺激を受けやすい。目は見る対象を選べると言う点で能動的である。ところが目は受けた刺激を脳に送り込むと言う点で受動的である。目で相手に想いを伝える機能は確かに能動的だが、それは受ける相手がその想いを察した時点で意味を成す。そして相手も自分の想いを目で返答した時点で刺激は双方向となるのである。

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怒り変換機1

その1)
「こんにちは、良い天気ですね」
「いらっしゃいませ。Aさん、久しぶりですね。秋晴れが続きますね」
「昨日メールが入ってて今度、怒り変換器による治療も始められたと聞いたんですが、それはなんですか」
「はい、つい先日から始めたばかりなのですが、好評なのでただいま皆様にご紹介している最中なのですよ」
「今日その説明だけでも聞くことはできますか」
「ええ宜しいですよ。実は予約が一杯なのですが、Aさんでしたら予約の合間に入れて差し上げますわ」
「ああそうですか。有難うございます」
「では廊下奥へどうぞ。怒り変換器については赤の扉からお入り下さい」
A氏が部屋に入ると悲しげな短調の音楽が流れていた。入り口の扉は鮮やかな赤だったにも拘らず、部屋の壁はクリーム色と茶色を主体とした色調で統一されていた。暫くするとドアにノックの音がした。
「こんにちは、お待たせしました。Aさん、お久しぶりですね」
「あ、先生ですか。担当が変わられるのかと思いましたが」A氏はいつもと同じ心理士だとは思ってもいなかった。
「あら、担当は好きなように選べますので私でなくても結構なのよ」心理士はすねたような素振りを見せた。
「いえ、いえ、そういう意味ではないんです。{夢解析}と{怒り変換}とは診療内容が全く別個だと考えたので、あなたが入って来られて意外だったのです」A氏は額の汗を拭った。
「ああ、そういう意味ですね。夢も怒りも出所は同じなのです。潜在意識と呼ばれている所です。私はその分野で長年研究を重ねてまいりましたので、どちらの対応もできるのです」彼女の説明する態度には威厳が感じられた。
「それを聞いて納得しました。僕は他の方に診てもらう位だったら勿論先生の方が良いですよ。先生は僕の心の奥深くまで見透かされていますからね。心も身体も裸にされたようなものです」
「それは極端ではないですか」そう言いながら心理士は顔を火照らせた。
A氏はテーブルの上に置いてある怒り変換器に目を留めた。特に何の変哲もない機器だった。
「夢解析器と外観は余り変わらないようですが、何か違いでもあるんですか」
「ええ、基本的な動作は殆ど変わりません。ただ2ヵ所パッチセンサーが追加になりました。こめかみと目尻です。こめかみでは怒りの徴候を検知します。また、目尻では悲しみの徴候を検知します。そして怒りがどの様に悲しみに変えられるかを検証するのです」心理士は2種のディスポセンサーを手に持ってA氏に示した。
「検知の方法は分かりました。それでは肝心の怒りを悲しみに変換する仕組みはどうなっているのですか」A氏はいきなり鋭い質問を彼女に投げ掛けた。
「はい、それではご説明しましょう。怒りには人物なり物なり必ず対象が伴います。検知機能で先ず怒りの対象を特定します。その対象とあなたとの係わりを時系列的に拾い上げます。それを第三者的な眼で見て、状況を分析するのです。その時できるだけ当事者同士を公平な立場で捉える必要があるのです」心理士は要点だけをかいつまんで説明した。
2に続く


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夢の検証316

夢の続き

千葉県にある田川村に古民家展示場があるとパンフレットに載っていた。ネットで調べたが最寄り駅ものってないし、展示場ものっていなかった。

検証316
千葉県に田川村があるかどうか分からない。最寄り駅も見つからないくらいだから多分実在しないのだろう。古民家には興味があり一度泊まってみたいとは思っている。

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長いトンネルの向こう 最終回

その4)
 結婚当初、専制的に彼女をあしらった自分の姿。料理が苦手な加代に感謝もせず食べていた自分の高慢。それらは確かにクリスチャンにあるまじき行為であった。
 さらに父母の介護で田舎と東京を往復する彼女との言い争いの日々。加代の強引さにほだされ、なけなしの金を使い果たして家族四人で列車に乗り田舎へ帰った日。両親の見舞いを終えて遅く帰った日の夜中、彼女に手を挙げた自分の短気。聡史の胸は申し訳なさで満たされた。
 聡史に圧迫され続けていた加代のいたい気な思いが、すべてノコギリの歯先に集約されているようだった。聡史は肉体に感じる痛みを、加代が今まで感じて来た精神的痛みとオーバーラップして感じ取っていた。加代は突然、廊下に物音を感じて聡史から離れた。
「あなた、近所の吉野さんが廊下の奥から来るわ。気をつけてね」加代の眼は完全に幻覚を見ていた。
「そうだな。気をつけないといけないな」聡史はすんなりと同調していた。
 急に寒気を感じ、聡史はその場にうずくまった。歯がガチガチと鳴っていた。聡史の上からかけられた、加代の手による毛布のぬくもりが、彼女の愛の残り火を示していた。
 聡史は毛布にくるまった状態で、そのまま朝まで仮眠した。加代はその晩もまた不眠だったようで朝方、彼女の声に揺り起こされた。
「あなた、今日からバイオリンの合宿よ。早く仕度をしなくちゃいけないわ」彼女は現実から遥か彼方へ飛んでいた。
 空が明るくなると同時に加代は外に飛び出して行き、近所で自分が正常であることを触れ回っていた。ついに聡史一人では手に負えず救急車が呼ばれ、歩き回っていた彼女を病院へ搬送することにした。救急車の中でも彼女は自分の正気を一人信じていた。
 病院到着後も納得せぬまま診断を受け、緊急入院が必要との医師の診断のもと病棟に連れ去られようとした時にも、彼女は必死に抵抗した。そこで独房に引き込まれる際に、冒頭に載せた叫び「パパー、パパー」が彼女の全身から発せられたのだった。
 入院は一年半に及んだ。入院後、半年過ぎた時、加代は生命の危機にさらされた。聡史はその時のことを忘れることはできない。
 ある時、処方された薬が強過ぎて彼女は個室で意識を失って倒れた。そして急遽、救急病院に運ばれた。聡史は職場にかかって来た緊急電話で呼び出された。渋滞に巻き込まれたバスの中でも聡史は気が気でなく、彼女の安全を祈り続け、生きて再会できることを願い続けた。「このまま死に別れることになったらどうしよう」との思いだけが胸を占めていた。
 加代が搬送された救急病院に聡史が着くと、彼女は入れ違いで元の病院に戻ったところで会うことはできなかった。ただ意識を取り戻し、歩いて帰れたと聞いてホッと胸をなで下ろした。彼女が生きて守られたことに感謝せずにはいられなかった。
 一年半の入院生活は加代を変えた。聡史も変えられた。彼女は従順さと落ち着きを取り戻し、聡史は彼女に対するいたわりを取り戻した。
 この十年間の試練を通じて、聡史は精神的にも変えられた。加代との感情的なしこりも消え、心の底から理解し合えるようになった。その結果、同居する姉との和解もでき、お互い相手の弱さをかばい合える心遣いが復活した。
 入院中、加代はあらゆる処方を試みられ、一時は主治医が匙を投げかけたこともあった。車椅子で廃人同然になった彼女の姿は痛ましいほどに聡史の胸に残っている。主治医として残る手段は電気ショックしか残されていないと宣告もされた時点では絶望のどん底に突き落とされた。(完)
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羞恥心の相対性

羞恥心の相対性

二人が社会通念を逸脱した行為をする場合、一方は羞恥心を感じるが他方は感じない事がある。二人の間に羞恥心の違いがあるからである。一般的に男より女の方が羞恥心は強い。羞恥心は慣れると鈍感になるが、男は鈍感になる速度が速い。男は変化に敏感だからである。
女は刺激を全身で受け取る傾向が強いが、男は局部的に受け取る。刺激の最大の受け口は目と局部である。目で受け取る刺激の主なものは言葉と画像だが二つとも思想に影響を与える。女は平均的に保守的であり新しい思想に馴染みにくいが、男は進取的に新奇な思想を受け入れる。思想は社会通念に影響を与え結果的に羞恥心をも変化させる。男と女の羞恥心が解離する所以である。

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