逆転4

その4)
預言者からの返事が聞けないまま、K氏は夢から目覚めた。夢が余りにもリアルだったために、彼はもう一度寝たら預言者からアドバイスが聞けそうな気がした。でも今から寝ては会社に遅刻する。社長から何を言われるか分からないと思うと不安になり、彼は身支度を始めた。立ち上がると眩暈は完全には収まっていなかった。
「あなた、起きられる。会社、お休みにした方が宜しいんじゃない。無理しない方が良いわよ」
「いや。今日は輸入会議があるから休む訳にはいかんよ。休んだら何を言われるか分かったもんじゃない。休んだ時に鍵って問題が起こるんだ」
「じゃ無理しないでね。行ってらっしゃい」妻はもうそれ以上、言わなかった。
「行って来るよ。今日も遅くなると思う」K氏はふらふらする足取りで家を出た。
満員電車に揺られると途中で気分が悪くなり、一度トイレに駆け込んだ。そんな事もあり会社へは滑り込むようにして入って行った。
部屋に入ると机の上にメモが置いてあった。
{Cさんは風邪のため、休むそうです}
K氏は唖然とした。彼女は三日、来ていなかった。輸入担当の彼女がいなければ資料もできない。彼は目の前が暗くなりかけた。その時、朝礼が始まった。
ワンマン社長の挨拶から始まってS常務の業務連絡と続いた。K氏の順番となり、輸入会議の件とC嬢欠勤の件を連絡した。その途端、社長が口を開いた。
「Sさんは今日で三日も休んでるんじゃないか。どうなってるのかね。君の管理不行届きじゃないかね」
「はい、私も先ほど電話のメモを見ただけですので後ほどすぐに確認致します」K氏はそう返事をしたものの、昨日に引き続きまた一つの減点対象が増えたと感じた。その瞬間、再び眩暈を感じたのだった。
C嬢は勤め始めてから未だ1ヶ月ほどしか経っていなかった。輸入担当として入社した彼女は先月一度目の輸入会議に出席し、今回二度目の輸入会議に出席する予定であった。その日に休むとは余り良い兆候ではなかった。
彼女は海外留学経験もあり、語学を得意としていたのでK氏は期待していた。彼女に輸入を任せられれば彼の際限のない残業は減ると思われたからだ。ただ語学堪能者だからと言って輸入ができる訳ではなかった。彼女は語学屋であって実務者ではなかったのだ。K氏は見通しの甘さを悔いた。
午後からの輸入会議にはK氏自らが資料を作成した上に新規輸入商品の説明も彼が行なった。C嬢に任せっ切りで良く把握していなかった盲点を突かれて、S常務や各営業マンから矢継ぎ早やの質問を浴びせられてK氏はしどろもどろした。
長い輸入会議が終わった夕方にはK氏はグッタリしてしまった。昼食も気分がすぐれずに日本蕎麦を食べただけだった。それも半分残した有様だった。帰る頃になって空腹を覚えたものの同時に気持ち悪くもあり、何も口に入れられなかった。
「K課長、ちょっと社長室まで来たまえ」ボーとした頭で書類整理をしていたK氏の背後からS常務の怒気を帯びた声がした。
「はい、ただいま伺います」K氏は答えながら心臓が圧迫されるのを感じた。
5に続く

nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。