サラ金の親分 最終回

その5)
「イエスが犠牲となって肉体を身替わりにしたというのんは何となく分かるが、その結果、永遠の魂が手に入ったというのはわしの理解を越えておるのお」
「古来ユダヤ人の社会では羊やヤギが生け贄として神に捧げられて来ました。罪を犯した人間が赦しを乞うためです。ところがいつしか神に対する罪が積もり積もって動物の生け贄では対処し切れなくなりました」
「それで人間の生け贄が必要だった訳か」
「そうです。でも生け贄は普通の人間ではいけなかったのです。人類の罪全体を贖うには身も心も傷のない純粋な魂が必要だったのです。イエス・キリストは幾多の預言者によって予言され続け、人民に待望されていた贖い主だったのです」
「ではイエスとやらがいなければ、人類の罪は赦されなかったという事じゃな」親分は少し光が見えて来たようだった。
「そうなのです。神から罪の赦しが得られなければ、私たちは神に近づくことはおろか、話すことさえもできなかった訳です。イエス・キリストこそが神と人類をつなぐ架け橋となったのです」Qは言葉を区切って思いに沈んだ。
「そこまでは良く分かった。それが永遠の魂とどうつながるんじゃ」沈黙を破るようにして親分は最後の答えを迫った。
「永遠に生きる魂とは神と直結した魂を言うのです。日々、神から無限のエネルギーを得ていると実感できる者だけが、これからもずっとそのエネルギーを受け続けられると確信できるのです。永遠とは現在の延長線上にしかありません。更に現在の充実感を実感できる前提として、神と和解する以外に道はないのです。肉体は滅びますが、神と和解し直結した魂は永遠に生きるのです。それは死の瞬間にも自分は神の霊に包まれていると実感できるからです。自分の魂が生まれ故郷の霊に吸収されると確信できれば、もう何も恐れることはないのです」Qの顔はうっとりしたような平安に満たされていた。
「そうか、そして神と和解するにはイエスを仲介とするしか道がないと言うのじゃな」親分は自分に念を押すように言葉を並べた。
「そうです。お分かり頂けましたか」
「おお、やっとわしにも真理が見えて来たようだ。永遠の魂を得られれば死は恐怖ではなくなるのだな。それを得るために財産は有効なのか」
「いえ、神との関係を維持するのに財産や富は却って障害となります。何故なら、それらは神にすがる心を根底から破壊する張本人だからです」Qの顔は厳しくなった。
「そうか、それじゃわしは今日限りでこの商売からは手を引き、財産を処分することにする」親分の決断は速かった。
「え、親分、あっし達はどうなるんですか」子分達は情けなさそうな声を出した。
「お前たちはしっかり自分たちで進路を考えるが良かろう。必要な金は渡す。Qさん、あんたには色々教えてもらってわしもこれから平安な生き方ができそうじゃ。Pの借金も帳消しにする。あんたも今日限り自由だ。お礼に何が欲しい」親分はQに笑顔を向けた。
「私は自由になれただけで感謝です。何もいりません。天の神はあなたという一つの魂が救われただけでお喜びなのです。私も嬉しいです」Qが涙ぐむと親分も感無量で言葉を失った。
そして別れ際に親分はQの手を強く握り締めた。二人はまるで以前からの親友ででもあったかのように暫し相手の眼を見つめたのだった。



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