逆転3

その3)
「あなた様の力であの社長を変えることはできませんか」K氏は一縷の望みを託した。
「あそこまで利己的になると、わしの手にも負えん。最後は神の裁きに委ねねばならん」
「早く裁かれれば良いですね。そうすれば私も安心です」
「そう喜ぶのはちと早い。あぬしも今のままだとあやつと全く同じ運命を辿ることになるのじゃ」
「え、何でですか。私は彼ほど悪いことはしてませんよ」彼は大いに不満だった。
「では聞くが、おぬしは今まで神に感謝したことはあるか。それ以前に神の存在を認めているか」
「いいえ、私は無神論者なので神のことなど考えたこともありませんよ」
「それがそもそもの間違いじゃ。おぬしの命を授けてくれた神を知らずして、どうして生活ができるのじゃ」
「別に神を知らずとも日は昇り日は沈み、一日は過ぎて行くじゃないですか。食べ物も豊富だし、生活も寝る家も確保されてますからねえ。それに健康だってこのように…」と言い掛けたK氏は口ごもった。彼は夕食中に眩暈を起こしたことを急に思い出したのだった。
「おぬしの健康が保たれているのは誰のお陰だと考えておるんじゃ。その答え次第では、おぬしは明日、目覚めるかどうかは保証せぬぞ」
「え、何をおっしゃるんですか。一晩寝れば明日は健康になるのでしょう」彼は心に不安を覚えた」
「それは正しく神が決めることじゃ。おぬしに命を与え、寿命さえも取り仕切っているのは神だと認めるか」耳をつんざく預言者の声が岩肌に木魂した。
「認めないとどうなるのですか」恐る恐るK氏は尋ねた。
「おぬしは死ぬ」厳粛な答えだった。
「分かりましたよ。それでしたら認めます。認めたらそれ以外にどんなメリットがあるのですか」彼は神の存在を認めると急に気持ちが晴れ晴れとして来た。
「おぬしも転んでも只では起きない男じゃのう」預言者は半ばあきれ、半ば感心していた。
「神を認めることが知恵の始まりなんじゃ。そこが出発点じゃ。さすれば今まで閉ざされていた世界が見えて来るんじゃ」
「閉ざされた世界がどこにあるんですか」
「おぬしの心の中にある世界じゃよ。自我に覆われて隠されていた潜在意識の世界が身近なものとなるんじゃ」
「潜在意識の世界を知ったからってどうってことないでしょう」K氏はそこまで考えが及ばなかった。
「潜在意識の中にこそ神の霊が宿っておるんじゃ。神の絶大なる力を秘めた潜在能力と解放する鍵が潜在意識の中に隠されているんじゃよ」
「では私にも奇跡が起こせるってわけですか」
「おぬしが神の力を信じさえすれば奇跡でも何でも起こせるんじゃ。その身と心を神に委ねた人間ほど力強い存在はこの世にないからじゃ。動物にはない信じる力を神から託されたのは人間以外にいないからのう」
「私も是非、その力を授かりたいものです」K氏は必死に懇願した。
4に続く

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