良太の冒険18

その18)
(抜け道)
突然、足の間を小さな黒い物が駆け抜けた。懐中電灯で行方を追うと、どぶネズミだった。良太はムカつきを覚えた。それは壁の向こうから出て来たことは確かだった。彼は足元を懐中電灯でもう一度、照らしてみた。彼はしゃがみ込み、足元を手探りした。
良太が足元に小さな穴らしい感触を得た時、急に指先に触れる物が表に、飛び出して来た。さっき見たより大分、大きいどぶネズミだった。
―この先に抜け道があるんじゃないのか。
良太は懐中電灯を足元に置き、両手でネズミが出て来た辺りの穴を手探った。
―何だ、この辺りだけは粘土質じゃないか。
 彼はしゃがみ込んで、両手で粘土を掻き取って行った。やがて足元には、子供一人が通り抜けられそうな扁平した穴がポッカリと開いた。
良太は迷った。
―この穴を通れば、向こうへ行けるかも知れない。手は泥だらけになってしまった。顔も身体も泥だらけになるのを覚悟しなくてはいけない。
 彼にとって、穴の先に現われる未知の通路が魅力だった。地下通路の先にある宝にも興味があった。
―泥だらけになっても、何より僕は今の自分を変えたい。
良太の覚悟は決まった。泥水が滴る横穴に、頭を斜めにして突っ込み、腹ばいのままほふく前進した。髪の毛に泥水が流れ落ち、額を伝って眼に入りそうになるのを、手の甲でぬぐった。
彼は穴に肩を無理矢理、押し込み、向こう側へ抜けようと必死に足を踏ん張った。穴に両肩がはまって、身動きが取れなくなった。彼は息を詰め、自分がどぶネズミになったものと想像して、一気に向こう側へすり抜けた。
穴から身体を抜くと、しゃがみ込んで辺りに目を凝らした。暗黒であった。
―しまった。懐中電灯を外に置き忘れた。これから先、灯りなしで進める訳がない。戻るしかないな。
 良太は油汗をかいた。彼は穴に手を突っ込んで、手探りで懐中電灯を探った。
―手が全く届かないぜ。また頭を入れるしかないのかよ。
 彼はうんざりして、頭と肩半分を穴に入れ、思いっきり右手を伸ばした。すると運良く、懐中電灯に手が届いた。
灯りを点けると、良太は50センチ四方ぐらいの岩棚にいた。下に懐中電灯を向けると、表面が光った。
―あれ、川が流れているぞ。そこまでは優に2メートル以上あるだろうな。
 彼の今いる岩棚は偶々切り立った岩壁に突出していた。そこで道は途切れている。
―このまま先に進むには、川まで下りねばなるまい。一体どうやって進めばいいんだ。もう飛び降りるしかないな。
良太は数を数えて心を落ち着けた。それから懐中電灯をポケットにしまうと、良太は漆黒の底へ飛び降りた。靴底が水面にぶつかる感覚とその下の川底にぶつかる感覚とは、ほぼ同時だった。水深が深くなかったのでホッとした。地下水の流れには冷気が漂っていた。
―痛かったなあ。でも無事に降りられて良かった。水が冷たいな。
足元に何かがぶつかる気配がした。慌てて懐中電灯を向けると、かなり大量のどぶネズミが走り去った。辺りには大小様々なネズミがうろちょろしていた。彼はそこから逃げるようにして先を急いだ。
―何なんだ。このネズミの大群は。
19に続く

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