初恋慕 最終回

その12)
(再会への期待)
卒業からあっという間に35年が経ち、誰もが人生半ばを越していた。それぞれの生活も落ち着き、一段落していた。クラスで面倒見が良かった大宮正博と美人系の豆白洋子が取りまとめ役を買って、卒業以来初めてかとも思われる、久々のクラス会が行なわれることになった。
今までこうした会からは遠ざかっていた良太も、当時憧れていた豆白が世話役だったこともあり、今回出席してみることにした。彼にとっては、細谷のその後も大いに気になるところだった。
当日まで出席者は知らされていなかった。その日、良太は期待に胸を弾ませて、三軒茶屋駅前のA中華料理店へと向かった。階段を上がるとすぐ受付があり、そこには大宮と豆白が出席者のチェックをしていた。
「いや、久しぶりだな。神埼だろ」大宮は浅黒い顔で愛想良く、挨拶して来た。
「ああ、そうだよ。大宮も元気そうだな」
「神崎君、ちょっと変わったわね」横にいた豆白が声を掛けて来た。
「あ、こんばんは。久しぶり」良太は自分が変わったことは知っていた。ところが豆白も大いに変化していた。当時の面影は残しているものの、目尻のしわまでは化粧で隠し切れていなかった。彼には「君も変わったね」とはついに言えなかった。
受付で手渡された名簿を見た良太はガッカリした。細谷が欠席であるばかりか、当然のように名字が変わっていた。和田寿美子に変わっていた。良太自身、既に妻子がいたので彼女が結婚したことに、さほどショックは感じなかった。むしろ彼女の結婚が幸せなものであることを願うのみであった。ただ心残りだったのは、卒業の際にも寿美子にまともな別れの挨拶と励ましの言葉を掛けられなかったことだった。
クラス会では各々が近況報告をし、食べて飲んで盛況の内に終わった。

(別れ)
その後瞬く間に五年の月日が流れた。
前回のクラス会で世話役だった大宮が北海道転勤から戻って来たのを機に、再び皆で集まろうと言うことになった。
「お前、何年、北海道へ行ってたんだ」良太は電話の子機を左手で支えながら、右手で箸をもてあそんでいた。
「二十年近く行ってたよ。あっちで子供たちも成長したさ」
「広々した大自然の中で子育てができて良かったな」
「ああ、子育ても一段落したとこで、僕も寄る年波で寒さが身体にこたえるようになって来たんだ」
「じゃあ、ちょうど良いタイミングで戻れたって訳だな」良太は未だ箸の先で秋刀魚をつついていた。
「お前、次のクラス会も来れるか」
「うん、行くつもりだけどね」
「前よりも集まりが悪くて困ってるんだよ。連絡がつかなかったり、亡くなったりした人がいてね」
「え、誰が亡くなったんだ」良太は変に胸騒ぎがした。
「和田さんだよ。旧姓、細谷さんだよ。去年、突然倒れて病院に運ばれたけど、間に合わなかったらしい」
「え、本当か」良太はその後の言葉が続かなかった。40年前の情景が鮮やかに脳裏に蘇ると同時に、眼からは涙が止めどなく流れていた。
「もう、彼女には二度とつぐなえない」独り言のように良太はポツリと魂から声を絞り出した。

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