初恋慕1

初恋慕(はつれんぼ)あらすじ
多感な中学時代の恋への憧れと恋に翻弄される男子の心。そして恋を手に入れた瞬間に、はじけ飛ぶ夢のような理想と現実の残酷さを描きました。
主人公神崎良太は中学になって男女交際の楽しさを知りました。中でも一人の女の子に興味を抱き始めたのです。寝ても覚めても彼女の面影は良太の心から離れませんでした。お互いの心の中を知りえず、目と目で気持ちを伝え合う甘い一時は夢のように過ぎて行きました。
そして、ついに告白する日がやって来ました。告白して両思いを知った良太は天にも舞い上がる気持ちでした。ところがそれもつかの間、彼は恋の重荷に耐えられなくなってしまったのです。最後には悲しい結末が待っていました。
初恋は夢の中に封印しておきたかったのです。    初恋慕
その1)
プロローグ(初春の遊園地)
 春にはまだ早い寒風の中で、中学生たちの晴れやかな声が遊園地にも初春の訪れを告げていた。正月気分がまだ抜け切らない彼らは、小躍りしながらなだらかな丘を駆け登って行った。小道にアーチをなす木々の梢に芽吹いた、ほころびかけた蕾も固い身を少しずつ和らげ、春の訪れを今か今かと待ちわびていた。
 木々に光を閉ざされた薄暗い小道を駆け抜けると、周りを花壇で被い尽くされたドーナツ型の池が眼前に広がっていた。
神崎良太は中学生になって初めての新年を迎えていた。小高い丘の中ほどに開けたこの一角は、多摩川遊園地の中でもひときわ落ち着いた雰囲気を漂わせていた。花壇に取り囲まれた池に漂う、よどんだ空気を吹き払うかのように、どこからともなく一陣の甘やかな風が良太の頬をくすぐった。
「神崎、ちょっと待てよ。女の子たちが遅れてるみたいだぞ」藤木勝美はずんぐりした身体に鎮座した、大き過ぎる顔いっぱいに噴き出す汗を手の甲でぬぐいながら息を弾ませていた。
「藤木、早くこっちへ来いよ。ボート乗り場があるぜ」
三学期が始まった早々の日曜日、同じクラスで仲の良い男女が10名ほどで誘い合ってこの遊園地に来ていた。男女双方の思惑が絡み合い、中には目当ての異性に接近する目的でやって来た者もいた。
良太にも気にかかっている女の子がいた。一人は中村と言い、もう一人は細谷と言った。二人は小学校時代からの親友らしかった。良太の通った瀬田小学校とは大分離れた、多摩川にほど近い商店街に取り囲まれた玉川小学校出身者だった。
早熟な中村はいつしか良太に興味を抱き始めていた。彼は彼女の熱い眼差しを感じる度に、嬉しいより煩わしく感じることが多かった。良太は女の子に付きまとうことはあっても、付きまとわれることには慣れていなかったのだ。
良太はことある毎にクラス内で中村からの視線を感じた。その視線を追いかけると、彼女の横には必ずと言って良いほど、細谷の姿があった。彼にとっては中村の存在を押し退けてまでも、細谷の存在が心を占め始めていた。初めはおちゃらけた感じであった彼女のしぐさも、好意を持つにつれ魅力へと変わって行ったのだった。
2に続く

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