良太の冒険19

その19)
(発見)
川上目指して、地下水路を辿って行った。やがて地下水路の左側に、大人がやっと腹ばいで通れるぐらいの横穴が開いているのを見つけた。良太はその穴が防空壕に通じている地下通路の入口だと直感した。胸の高鳴りを感じた。
良太は横穴に頭を突っ込み、懐中電灯で中を照らした。思った以上に急勾配になっていた。良太は四つん這いに近い形で、急な横穴をよじ登って行った。横穴は直線に延びている訳ではなく、右に左に蛇のようにくねりながら上昇して行った。
足場は決して安定したものではなかった。粘土質に泥が入り交じり、しかも湿気で水分を含んで滑りやすくなっていた。良太は急勾配ですべり落ちそうになるのを、周りに伸び出た木の根っこにつかまり、足で踏ん張りながら、やっとこらえていた。
腕や足の筋肉はパンパンに張れ上がり、もうこれ以上、進めないと思った刹那、前方にいきなり開けた空間が現出した。平らな床で天井も高く、しゃがんでも頭はぶつからなかった。広さは十畳ぐらいあっただろうか。良太はそこで息を整えながら、懐中電灯の光で辺りを見回した。
眼を凝らすと角の奥まった所に、どす黒く光る鉄板の一部が土から顔を覗かせていた。
―もしかしたら
 良太はそこまでいざって進んだ。鉄板は四角い穴を覆っているようだった。鉄板の上に被さった土を払い除けると、良太はおもむろに鉄板を持ち上げた。
何とその下にはミミズの大群がひしめき合っていた。良太は気持ち悪くなりながらも、懐中電灯ですくうようにそれらを払い除けて行った。しまいには素手でミミズをつかみ出すしかなかった。
やがてミミズのすき間から金庫の取っ手が見えた時は、歓喜の叫びを上げそうになった。
「ついにやった」
良太は金庫を穴から引っ張り出した。かなり重いが、体内には新たな力がみなぎって来た。
―この金庫を持って帰ったら、冴子や足立教諭は再び僕を認めてくれるだろうか。クラスの皆んなは山口より僕に注目してくれるだろうか。
 良太は期待で胸が膨らむのを感じた。
―この広い空間が防空壕だったのだ。
 良太は改めて地上が近いことを実感した。宝が入った金庫が隠されていた場所と反対側にかなり大きめの横穴が口を開いていた。
―きっと出口に違いない
 重い金庫を引きずるようにして、良太はその出口へ向かった。
その穴から斜め上を覗き込むと、前方が微かに明るかった。地上は近いのだ。良太は最後の力を振り絞って、右手で金庫を引きずりながら、左手で行く手を手探りした。懐中電灯がミミズの穴に埋没してしまった今、地上からの薄明かりだけが頼りだった。
ついに良太は四角い水道本管用量水器の穴に頭を出したのだった。上を見上げると格子状の鉄板の向こうに、瀬田ハウスの窓明かりが見えた。実は防空壕は瀬田ハウスの敷地まで延びていたのだ。戦時中、そこは聖ピエトロ教会の敷地だったからだ。
20に続く

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