良太の冒険11

その11)
(稼ぎ)
 放課後、義務的に掃除を終わらせた良太は急いで外に飛び出した。
―ああ、掃除は最悪だったなあ。
 掃除の最中、ほうきで魔女ごっこをしていて女の子たちに咎められたことに嫌気が差していた。良太はそんな思いを振り切るように校門に向かって走った。見ると校門を出た右斜め前の路上で子供たちの人だかりがしていた。
―何なんだ。あの人だかりは。紙芝居じゃあるまいし。
 良太は道路を渡って人垣の向うを覗き込んだ。手ぬぐいを鉢巻に巻いたおじさんが路上に店を広げていた。
「さあ、みんな寄っといで。どこにも売ってない手品だよ」
 おじさんの手の平には薄っぺらな紙の人形が立っていた。その人形が身体をくねらせて、まるで生きているようだった。
―すげえ。あんな人形があったらクラスで自慢できるな。
 おじさんは続けていくつかの手品を披露した。
「十以上のセットでたったの三百円だ。どうだね。安いよ」
 おじさんは良太に向かって話しているようだった。
―欲しいけど、金がないよ。そうだ。友達に転売して儲けるとするか。誰が良い。杉田が良いかもナ。
 杉田は運送屋の一人息子だった。家にはエレベーターがあり、当時としては良い暮らしをしていた。良太は杉田光春に話しを持って行った。学校から二、三分の所にある彼の家を訪ねると既に帰って来ていた。
「おい、杉田。良い話しを教えてやるよ。すごい手品セットがたったの五百円で買えるんだぜ。学校の前で売ってるんだ。俺が今、買って来てやるよ」
「そんなすごい手品なのかい」
「そりゃ見たこともない代物さ。手の平の上で紙の人形が踊るのさ」
「本当。ちょっと待ってて。お金もらって来るよ」
 良太は杉田から預かった金で手品を買った。そして差額をポケットにしまい込んだ。
―こんなに簡単に商売ができるとは思わなかったな。先生にばれなけりゃあ良いがな。
 良太は心に痛みを感じた。
12に続く
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