良太の冒険2

その2)
(下見)
良太は片手で試験管を持ちながら、自転車を倉品の家に走らせた。家の前に着くと、いつものように「倉品君、遊ぼ」と大声で家、全体に呼びかけた。しばらくすると、玄関のドアが開いた。
「あー神崎君、ちょっと待っててね。光隆は今、宿題してるからね。もう少しで終わりますよ」と倉品の母が、ドア越しに声をかけた。しばらく待つと倉品が戸口に現われた。
―倉品の奴、こんな時間から宿題なんかして何、考えてるんだ。
「やあ、お待たせ。君は来るのが早いね」と彼はおやつを食べながら、口をモゴモゴさせていた。
「ああ、俺は宿題を夜やることにしてるからな。学校から帰ったら、すぐ出て来たんだ。途中駄菓子屋に寄って、栄養補給して来たよ」と良太は黄色く染まった舌を出して見せた。
「何だ、その色は」を倉品は見慣れない毒々しい色にびっくりしていた。
「これから玉川霊廟に行ってみないか」と良太は切り出した。続けて、
「お前、この間、玉川霊廟と聖ピエトロ教会は地下道でつながってるらしいって話してたよな。そのことが俺の頭にずっと引っかかってたんだ」と彼はまだ、舌をペロペロさせていた。
「うん、僕も親戚の叔父さんから聞いた話で、確かなことは言えないんだけどね。昔の防空壕の跡がつながってるらしい」と金縁のメガネの奥を光らせた。
「きっと地下道があるはずだよ。行ってみようよ」と良太は気がせいてたまらなくなった。
「僕はあまり気が進まないけど、つき合いで行こうか」と倉品はしぶしぶ首を縦に振った。
倉品の家や良太の家の付近は多摩丘陵地帯だった。その辺り一帯は高台になっており、河川敷へは急勾配の下り坂がつらなっていた。二人は自転車で玉川神社の横を通り過ぎた。ここは地域でも盛大な秋祭りが行われる神社だ。良太は毎年、祭りは欠かしたことがなかった。アンズあめやたこ焼きが好物だった。射的や型抜きも好きだった。その参道入り口を右に見ながら急坂を一気に下る。
「わあー」と大声を出しながら、二人は急坂を下った。良太はそのスリルがたまらなかった。坂を下りきるとすぐ、寺太夫掘という川が流れていた。川と言っても、用水路のような川である。その川で良太は笹舟流しをして遊んだ。舟の後をどこまでも自転車で追いかけて下流の方まで行った事もあった。そこにかかる橋の手前を左折すると、すぐ先の左側に玉川霊廟はあった。
3に続く

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