打ち込み星人

打ち込み星人.jpgkinusaru1.JPG

nice!(0)  コメント(0) 

夢診療所6

その6)
(大学選択の失敗)
「いらっしゃいませ。今日はどんな夢の解析ですか」受付嬢は人なつっこそうな笑顔で迎えた。
「はあ、大学時代の夢に悩まされてるんですよ。一度、当時の悩みを掘り起こしたいと思いまして、また来てしまいました」A氏はここがお気に入りになって来た。
「それでは奥の解析室へご案内します。どうぞ」
A氏は彼女に従って、緑の扉の解析室へと入った。
「では、しばらくここでお待ち下さい。担当がすぐまいります」彼女は部屋を出た。
やがてピンクの心理療法士が入って来た。
「しばらくですねぇ、Aさん。今回はどうされましたか」メガネの奥からキラリと彼女の瞳が光った。
「最近、大学時代の夢ばかり見るんで困ってるんですよ。何が問題なのか良く分からないんです」
「それでは先ず、端子を接続してみることにしましょう」
モニターにはやがて、どこかの大学のキャンパスが映し出された。ビルが建て込んだキャンパスだった。庭も木など一切なく、校舎ビルと道路が近接していた。
「あ、これは僕が通っていたTR大学ですよ。僕はここに4年間いました」
「そして卒業されたのですね」
「いや、中退しました」
「4年間通って中退されたのですか。それは残念ですね。よほど大きな事情がおありだったのでしょうね」彼女は同情するように言った。
「僕は今まであなたのような同情的な言葉かけをされたことはありませんよ」A氏は心底、感動していたのだった。
「辞めるという決断には必ずや、何らかの理由がなくてはなりませんから、勇気のいることだと思いますわ」
「そう言って頂けると僕にも力が湧いて来る思いです」
モニター画像は校舎内での試験風景を映し出していた。誰もが時計を気にしながら、試験問題に取り組んでいた。
「この場面は学年末だかの進級試験場面ですよ。この時期は精神的に本当に辛かったんです。親は是が非でも卒業しろと圧力をかけて来るし、僕としてはあんな大学には早々に、おさらばしたかったんです。試験を受けている間も、なかなか気持ちを集中させることはできなかったんですよ」
「あなたはこの大学を自分の意思で選びましたか。そこに親の意思が強く働いていたことはありませんでしたか」彼女は全く今の話題とはかけ離れた質問をした。
「はい、僕は自分の意思で決めたと思ってますが。どうしてそんなことを聞くんですか」A氏にはその質問の意図が不可解だった。
「学校を中退する多くの理由は、親が選んだ学校に子供が入ったという場合が、一番多いのです。子供は親の敷いたレールを走るのを最も嫌うのです。あなたがよもや、そうした体験をしたかどうかも検証する必要があるのです」
「でも、この機械は夢専用なわけですよね。体験は夢とは違うでしょう」
「確かに『夢、解析器』という名前は付いてはいますが、夢に限らず体験や経験もモニターに映し出すことは可能なのです。夢は潜在意識の領域の話ですが、体験は意識の領域の話ですので、却ってモニターには映し出しやすいのです」
「へえ、それは知りませんでした。だったら忘れていた過去も見ることができるというわけですね」A氏は好奇心が溢れて来た。
「それではあなたの記憶を大学決定の時期に戻してみましょう」
映像は寝ていたA氏が、母親に叩き起こされる場面だった。
「K雄、TR大から今、電話があったわよ。合格しましたって。良かったわねえ」
Aは良く理解できなかった。と言うのは昨日、合格発表を見に行き、不合格を知ったばかりだったからだ。一夜明けて不合格が合格に変わるカラクリが理解できなかった。彼は一度、落とされた大学にお情けで入学するのが良いかどうか迷っていた。
彼は父親に相談して決めることにした。
「お父さん、TR大に入った方が良いと思う?それとも確実に合格したTD大に入った方が良いと思う?」
「そりゃあ、TR大に入った方が良いと思うよ。だって、あそこは昔、物理学校と言われ歴史があるとこなんだよ。大学のランクでもTD大よりTR大の方がずっと上だよ」父親は大学の内容より見かけにこだわるタイプだったのだ。
「僕はTR大よりTD大の入試問題が自分には合っていたし、TD大が自分に合ってると思うんだけどなあ」AはTD大に愛着を感じていた。TR大は冷たい感じがしたのである。その予感が最終的には見事に的中したのだった。
だが、この時点で彼は父の指示に従った。TR大に補欠で入学したのだった。補欠入学したという意識が、彼の潜在意識にまで重大な影響を与えたらしい。
「あなたは結局、TR大を選ばれたわけですね。それもお父様の意見に押され気味のご様子でしたね。私はここで断言できるのですが、あなたがTR大を中退された理由は、実にその大学がお父様の意見で決定されたという点にあるのです。あなたは大学決定において、結果的に自分の意思をないがしろにされた気持ちが強いのです」彼女はきっぱりと言い切った。
「それでは僕が中退したのも必然的な結果だと言われるのですか」
「そうです。あなたは中退によって初めて、お父様の前に自分の意思を明確に打ち出されたのです。もしそこで意思を明確にしなかったならば、あなたは永久にお父様から自立することはなかったでしょう」
「と言うことは、私にとって中退は意味があったと考えて宜しいわけですね。これですっきりしました。今まで心に引っかかっていたことが全くなくなったみたいです。有難うございました」A氏は心理士に深々と頭を下げた。
  7に続く

nice!(0)  コメント(0) 

思考の迷路

思考の迷路

子供に教えていて問題が解けない時がある。焦れば焦るほど時間だけが無情に過ぎて行く。面子があり子供の前で解けないとは言えない。万事休すである。その場での解説は諦めて後日に回す事にする。家に帰ってゆったりとした気持ちで問題を解き直すと新たな道筋が見えて来る。行き詰まった時は一旦その場から離れるのが大事だ。
思考の迷路に入り込むと簡単には抜け出せない。同じ場所を堂々巡りしている。そんな時はその迷路から離れて気分転換するのが肝要だ。こんがらがった脳の糸を解きほぐす必要がある。無理にではなく出来るだけ自然に解きほぐれるに任せたい。脳から余計な負担を除いてやれば新たな着想が上から与えられる。

nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。