夢解析器28 後編

後編
「これで昨夜の夢は終わった訳ですが、猫の話といいコーヒー間の話といい、何ともまとまりがなく意味不明で済みません。僕は今回の夢こそ、何のメッセージも読み取ることができないんです。どうでしょうか」A氏は哀願するように心理士を見つめていた。
「Aさん、あまり気になさらないで結構です。夢とは本来、論理的なつながりはないものですからね。あなたの記憶の内で特に印象に残った断片が単につなぎ合わされて出て来ただけなのですよ」
「先生のおっしゃる通りです。舞台は40年前の家の台所で登場人物は亡き母と猫。そして僕は猫に襲われながらも朝食の仕度をしていた。そこには何の関連性も見出されません」
「Aさん今、猫と言われましたね。それは『モモ』ちゃんではないのですか」心理士はA氏の一言が気がかりだった。
「はあ僕が猫と言ったのは今、突然、行方不明になった我が家の飼い猫『マル』のことを思い出したからです」
「え、『マル』という猫も飼われてたのですか」
「はい、オス猫で僕らが2階で飼ってました。1年程前に突然、家出してそれ以来、行方知れずです。その猫は野良で捨て猫だったのです。前から家を出たがっていたようです」
「そうですか。元気に暮らしていると良いですね」
「僕はさっきモニターで猫の姿を見た時、モモにはないジャンプ力だと言いましたよね。もしかしたらマルだったら、あの程度のジャンプ力はあったかも知れません。彼はスリムですばしこい猫でしたからね」
「そうですか。遠くにいるマルちゃんがあなたに会いたくなって夢の中に出て来たのかもしれませんねえ」
A氏はマルのいた頃のことを思い、胸が熱くなった。行方不明になる直前、A氏はやたらとマルを叱りつけていたことを思い出し、彼に済まなかったと思っていた。当時、マルは廊下や壁の至る所に尻からマーキングの液を振りかけていたからである。成人して早々に手術をしたので、しばらくマーキングはなかった。
ところが家内が入院して構ってくれる者がいなくなったためか、淋しく、しかも外に出られない欲求不満からか、いつしかマーキングに明け暮れるようになっていた。A氏と息子二人は彼のマーキングを見かける度に頭や尻を叩いたりした。そのため彼は彼らを見る度に尻尾を巻いて逃げ出したものだった。
「Aさん、どうされました。何か考え込まれてましたね」気になった心理士は尋ねた。
「はあ、今『マル』のことを思い出してた所です。僕は彼のマーキングを叱って、厳しくし過ぎたことを考えてました」
「彼をかつて無碍に扱ったことがAさんの胸にわだかまっていたのかも知れませんねえ。そのわだかまりが『マル』ちゃんからのあなたへの攻撃となって夢に現われたのでしょう」
「そうですか。そう考えると僕は夢で彼から攻撃されたことも当然のこととして受け止めることができます。ホッとしました」
A氏は尚も『マル』のことを思い続けている様子だった。

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冒険か現状維持か

冒険か現状維持か

人には二つのタイプがある。冒険志向か現状維持かだ。起業家や転職組は前者に属し、終身雇用組は後者に属する。変化を好むか安定を望むかで道は二つに分かれる。新しい物を手に入れようとするなら古い物に執着してはいけない。どちらも手放さないのは贅沢と言うものだ。保守派の失敗の原因は二兎を追う事にある。
固定客を得るのは収入安定には不可欠である。客側から言えばお得意様になればサービスは向上するし、スカを引かなくて済むから安心材料ではある。しかし冒険家はここで言う。スカを引いても構わないから、もっと新たな刺激が欲しい。そうなのだ。彼らはギャンブラーの資質も備えている。冒険には確かに危険が伴うが、危険無くして飛躍はないのである。

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