夢解析器29 後編

後編
その時、久々に性興奮ランプがモニター下で点滅した。
「あなたの意識が目覚めた途端に変な想像をされましたね」心理士は顔を赤らめながらモニターに映った年若い女性の艶姿を見つめていた。
「この方はどなたですか」
「彼女は職場のクラークです。最近、結婚したばかりなのです。特に可愛いというでもなく、魅力的というでもないのです。何故、僕の意識が彼女を夢に呼び出したかは不明です」
「この時は半覚醒状態ですから夢というわけではありません。夢と現実を行き来している状態なので、映像としては非常に捉えにくいのです。この時の記憶は後から辿ろうにも不明瞭なことが多いのです」
「おっしゃる通りです。僕はこの時、目を開けたり閉じたり、2,3度、繰り返していました。その間には目覚まし時計を聞きましたし、それを止めもしました。深く眠り過ぎて遅刻しないようにしようとする意識も働いていたようです」
「話は戻りますが、興味のあまりない女性が意識に上った時、あなたは多少なりとも興奮されましたね、何故ですか」心理士は女性特有の勘で鋭く質問を浴びせて来た。
「はあ、その時、何故か僕の理性のたがは外れていました。夢の中で僕はこんな理屈をこねていたのです。結婚したての彼女なら交渉してもバレはしないだろう」
「んまあ、何て破廉恥なことを考えたのでしょう。私はAさんに幻滅してしまいましたわ」
心理士は急に怒り出し、A氏からもモニターからも目をそらした。
「先生、僕もその時、何故そんなことを考えたのか、自分でも分からないんですから余り責めないで下さいよ」A氏は心理士が何故こうも急に怒り出したのが、全く訳が分からなかった。
「そうね、ごめんなさいね。私も少し興奮し過ぎたようですわ。あなたがその女性にそんなにも興味を抱いているのを聞いて、少しカッとしてしまいましたの。でもモニターから彼女の姿が忽然と消えるのを見て、あなたは全く彼女に執着していないことが分かって安心しましたわ」心理士は照れ隠しをするように下を向いた。
「そう言って頂いて安心しました」鈍感なA氏は心理士の心の動きを良く把握してはいなかった。彼女のA氏に対する思いを幾分なりとも知っていたならば、彼はその場で落ち着いて話などしてはいられなかったことだろう。自意識過剰も考えものだが、A氏のように女性の気持ちに鈍感なのも、これまた考えものなのであった。
「Aさんは何度かまどろまれた後、定刻の時間に起きることはできたのですか」しばらくして心理士は言った。
「はい、遅れずに起きることができました」A氏は彼女の言葉の奥に潜む深い思いには一向に気づいていないようであった。
「そうですか、良かったですね」この時には彼女も平静に戻り、冷静な口調で言った。
窓の外は時折、雨が混じる曇り空であった。台風が近づいているらしくA氏の夢のように先行きの見えない空模様であった。
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余力を残す

余力を残す

精一杯出し切るのは完璧なようだが意外な落とし穴が待ち構えている。昔アガメムノンと言う若者がいとこのタマルに恋をした。ある日、我慢が出来ずに彼は彼女をものにした。その場で最終目的まで達成してしまったのである。すると不思議な事に彼の恋心が一挙に醒めたばかりでなく、彼女に対して憎しみの炎が燃え上がったのである。
いくら好きな異性でも最終目的を達すると熱が冷めるのは理解できる。いきなり最終段階まで進むのが間違いなのである。精一杯で突き進まずに余力を残して目標に向かうのが肝要なのである。登山はヘリコプターで直接に頂上まで行き着くのがベストではなく、途中の景色を楽しみながら頂上を目指すのに妙味がある。頂上に辿り着くまではその山に愛着を感じられるのである。

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