初恋慕10

その10)
(重荷)
週明けの月曜日、良太の心は深く沈んでいた。寿美子に本心を告白したので本来ならすっきりしている筈なのに、重苦しい心の正体が分からなかった。
教室に入るまでの廊下の道のりが長く感じられた。
「おはよう、神埼。どうしたんだ、元気なさそうだな」後ろから元気の良い畑中が声をかけて来た。
「あ、おはよう。別に何でもないよ」良太は無理に、明るく振舞おうとした。
「お前、あれから細谷から電話があったか」彼は土曜日の一件が気になるらしかった。
「いや、特になかったよ」良太は何故か嘘をついた。告白したことは親友である畑中にも言いたくはなかった。ましてこの重苦しい気持ちでは、話せばもっと深みに落ちそうに感じていた。
「そうか、残念だったな。また機会はあるさ」彼は楽観的にすべての物事を捉えていた。良太の告白も彼にとっては他人事なのだった。逆にその無関心さが良太には有難かった。
教室に足を踏み入れた良太は無意識に寿美子の姿を探していた。教卓に近い窓際に、その姿はあった。二人の目と目があった。彼は彼女の視線をまともに受け止めることができなかった。彼女の目には訴えかけ、縋りつく熱い思いが読み取れたからだ。
良太は細谷の横に中村美津枝が影のように付き添っているのが気になった。彼女の視線は悲しげに、良太に向かって何かを問いかけていた。彼はいたたまれず、すぐに視線をそらした。恐らく親友である二人は告白のことを既に話題にしていたのだろう。良太は中村が未だ彼に思いを寄せていたことも知っていた。彼は美津枝の気持ちを察すると、胸の内が言いようもなく苦しくなるのを感じた。
「俺は中村美津枝を傷つけてしまったのかも知れない」良太はひとりごちた。
その後、良太は細谷からも、勿論、中村からも遠ざかるようになった。二人の視線にどう応えたら良いか、見当がつかなかったからだ。
寿美子からひと時、発散されていたオーラは既に良太の目からは消えていた。今では、彼女は入学当時のどこにでもいる女の子に戻ってしまっていた。
その頃、同時にクラス全体の雰囲気が変容し始めた。男女交際をしたり、甘い恋を囁く時期は終わりを告げようとしていた。クラスが荒んで来たのだ。その荒みは3年の前半までも続いた。
「おい、畑中が塚原にケリを入れられて反撃したらしい。そしたら塚原が顔面パンチを食らって、鼻血を出してるよ」
「井山が女の子の前で良いかっこするから、番長の竹井が怒って放課後、奴を血祭りにあげたそうだ」
こんな話題を耳にする度に、良太は自分が犠牲者にならないように、自重し出したのだった。
11に続く

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