初恋慕8

その8)
(告白の催促)
2Bの箱が空になる頃には、良太の心から怒りは消え、天気とは裏腹に晴れ晴れとしたものになっていた。辺りはすっかり闇に包まれ、最後の2B弾がオレンジ色の火花を飛ばし華麗に炸裂した。
「神崎、気分は収まったか。景気つけたついでに、細谷に告白しちゃったらどうだい」畑中の提案に鈴木も急に乗り出して来た。
「そうだよ、神埼。気持が盛り上がった時に打ち明けちゃえよ。お前、好きなんだろ」
「好きだけど、今、打ち明けるってのは何だなあ」良太は催促されてまで打ち明けたくはなかった。
「あ、そこにちょうど電話ボックスがあるじゃん。鈴木、お前んちから学校の電話連絡簿、持って来てやれよ」畑中は既にその気になっていた。
はあはあ言いながら、鈴木は家から電話帳を持って来た。
「えーと、一年C組女子、細谷寿美子、電話、あったぞ神崎。電話ボックスへ行こう」普段、消極的な鈴木までが、今日は積極的で乗り気になっていた。
「お前ら、人の事だとどうして、そう張り切るんだよ。打ち明ける身にもなれよな」良太は既に胸がドキドキして仕方なかった。
「ほら、迷っててもしょうがないぜ。早く電話しろよ」
とうとう良太は受話器を取り上げてダイヤルした。
「リリリリリーン、リリリリリーン」呼び出し音がいかに良太の耳には長く続いたことか。
「はい、細谷でございますが」突然、受話器の向こうから若々しいが、落ち着いた女性の声が響いた。寿美子でないことは間違いなかった。
「あの、神崎と言いますが、細谷さんはおられますか」良太はやっと声を振り絞った。
「いえ、あの子は未だ学校から戻ってませんが」
「はあ、それなら結構です。失礼します」良太はアタフタして、用件も何も言わず、電話を切るのが精一杯だった。
電話ボックスを半開きにして見守っていた二人は、同時に話し掛けて来た。
「誰が出たんだ」「どうだった」
「多分お母さんだろう。細谷は未だ帰ってないと言われた」
「ちぇ残念だったな。神崎、機会を逃がしたな」
辺りはすっかり暗くなり、どんよりした空がやっとの思いで、そこから雨が落ちて来るのを食い止めていた。
9に続く

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