初恋慕7

その7)
(2B弾の気晴らし)
坂を下り切った所には寺太夫掘と言う小さな支流が流れ、遠く多摩川に合流していた。寺太夫掘は道路から1~2m下を細々と流れる小さな川だった。両岸はコンクリートで整備され、多少の雨では溢れ出ないようになっていた。それでも上流が雨に見舞われた際には、水かさが増し、濁流が道路間際まで追い迫ることもあった。橋を渡って道路沿いに五軒ほど行くと鈴木の家があった。
「鈴木くん」畑中は外から大声で叫んだ。中からは何の返事もなかった。
「鈴木くーん」良太も呼びかけてみた。やはり何の返答もなかった。
「まだクラブから帰ってないんだな」
「じゃこの辺で時間をつぶしてようか」そう言って畑中が自転車のカゴから2Bの入った箱を取り出した時、左手奥のトンネルを抜けてこちらに歩いて来る人影が見えた。
「あれ、鈴木だよ、おーい」良太は手を振った。鈴木は気づいたようだったが、別に急ぐ風でもなく、のそのそと二人に近づいて来た。
「やあ、こんなところでお前たち、何してるんだよ」
「お前が来るのを待ちわびてたところさ」
「こんな夕方から遊ぶのかい」
「これも神崎のためだよ」
「え、神埼がどうかしたのか」
「奴は振られたんだよ」
「え、本当かよ」
「そんなんじゃないよ」良太は慌てて訂正した。
「さっきまで藤木や中村たちと緑地で遊んでたんだよ。そこに細谷も来るはずだったんだが、クラブが忙しくて来れなかったんだ。それで神崎がガックリ来たんで抜け出して来たってわけさ」
「神崎、お前やっぱ細谷が来るのを期待してたんだな」
「うん、まあな、少しがっかりして遊ぶ気がなくなっただけさ」
「そこで景気づけに2Bを一箱買って来たんだ。さっそく始めようや」
畑中は箱を開けると2Bを一本取り出した。先端に付着した火薬をマッチ箱のヘリについた摩擦面で擦ると、シュッという音と共に火花が飛び散った。続いて白い煙がモクモクと出て来た。十秒後には爆発する筈であった。
5まで数え、白煙が黄色くなりかけた頃合いを見計らって、畑中は寺太夫掘目がけて投げ入れた。川面に浮かんだ2B弾は黄色い煙を上げながら川下に流れて行った。
すると次の瞬間、「パーン」と弾けるような音と共に水しぶきを上げて、それは炸裂した。
「おお、やったあ」三人は顔を見合わせて成功を喜んだ。
良太も地面を擦って2B弾に火をつけた。ところが煙の色が白から黄色に変わっても、しばらく手に持ち続け、おもむろに川面目がけて投げた。それは空中で弾け飛んだ。
「おう、危ないとこだったな。もう少し早く手放した方が良いんじゃないのか」鈴木は横から心配そうに声をかけた。
8に続く

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