サラ金の親分1

サラ金の親分
平成24年12月5日
その1)
「親分、あっしはこうしてPの身代わりにQという奴をしょっ引いて部屋に監禁してるんすが、これがまた奇妙な奴なんでさあ。常識じゃ考えられないことを言うんでさあ。初めて監禁室に入れた時もこんなやり取りがありやした」

T金融ビルの地下には立派な監禁室がいくつか用意してあった。そこへ連れて来られたQはいきなり悦びの声を発した。
「いや、こんな落ち着いた部屋に住まわせて頂き有難うございます。感激です」
「おい、勘違いしてもらっちゃ困るんだよ。あんたをそこへ監禁するだけで何も住まいを提供した訳じゃないんだぜ」
「それでも結構です。住む場所もなかった私にとって雨・風がしのげる場所はどこででも天国なのです」

「親分、あっしには奴みたいなタイプの人間は初めてなんで、どう対処して良いかさっぱり分かんないでさあ」
「お前も未だ修業が足らんなあ。どんなタイプの者からも取り立てができるようにならんと一人前とは言えんのだぞ」
「へい、それは充分、分かってるつもりだったんすが、こんなにも自分というものがない奴と話したのは初めてなんで、あっしの手には負えんのですよ。一度、親分、会って下せえ」
「よし、じゃあ会ってみることにしよう。ここに連れて来い」
こうしてQは監禁室から連れ出されて親分の前に引き連れて来られた」
「お前がQか、大変変わっておるそうではないか」
「私としては変わっているつもりはありません」
「親分に口答えするつもりか、少し身分をわきまえろよ」子分Aが横から怒鳴った。
「まあ良い。お前は口を挟まんで良い」親分は全く動じていなかった。
「おぬしはPの身代わりで連れて来られたようだな。お前はPに何か借りでもあるのか」
「いえ、ありません。Pさんとは単なる知り合いです」
「知り合いなだけで借金の身代わりになるのはおかしい」
「私がこの世に生を受けたのは誰かの役に立つことです。僕はPさんの役に立てて嬉しいのです」
「そんな考えは時代錯誤も甚だしい。お前はいつからそんな考えになったんだ」親分にはQの考えが不可解だった。
「つい最近です。ふとしたきっかけで教会に行ったのです。そこでイエス・キリストに出会い、今までの価値観がすべて変えられたのです」
「それではお前は耶蘇か。昔、耶蘇には手を焼いたとわしの親父からも聞いたことがある。未だ耶蘇の影響力が残っておるのか」親分は腕を組んで考え込んだ。
「僕はキリストと出会ってから全く別人になったのです。以前の自分は不平・不満だらけで、人に感謝するなんて気持ちには到底なれませんでした。それが今では毎日が充実し満足に過ごせているのです」Qは晴れやかな顔つきに笑みが溢れていた。
「イエス・キリストがお前さんに何をしたと言うんだ。もう2000年以上前に死んだ人間なんだぞ」親分は呆れ顔だった。
「イエス様は死んでも生きているのです。僕は毎日、聖霊様から力を頂いているんです」
「また、いきなり訳の分からんことを言い出したな。その聖霊とやらは何だ」親分もイライラして来たようだった。
「イエス様が私たちに遣わされた助け主です。心の内に宿り力を下さるのです」
「わしにはさっぱり分からん。見えないものは信じられん」親分は正に現実主義者だった。
「そうなのです。神は信じるしかありません。信じない者には何も見えない筈です。宗教とは感覚の世界の出来事なのです」Qの言い分は何故か確信に満ちていた。
「わしは宗教などなくとも、こうして毎日、充実して過ごしておるから別に問題はないんじゃよ。ただおぬしのような価値観を持つ人間が理解できんのじゃ」親分はQと言い争う気にもなれなかった。
2に続く

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