良太の冒険10

その10)
(退屈)
 次の日、5年2組の教室では昨日の「お化け話会」が話題になっていた。
「菅谷の話は迫力があったな」とか「倉品の話は短か過ぎたな」とか声が上がっていた。
夏休みを間近に控えた教室は浮足立った雰囲気に包まれていた。ところが良太の気持ちは沈んでいた。金欠状態だった。駄菓子屋へ行って、買い物をする金もなかった。この間、前借りした小遣いも使い果たした。
―もうこれ以上、親からせびれないし、どうしよう。
算数の授業は計算プリントなので楽だった。終わった順番に外へ出て遊べたのだ。国語の時間が憂うつだった。本嫌いの良太にとって、文章を読み取って作者の気持ちを考えるなんて、できもしない相談だった。まして感想文など書くのは、逆立ちしてもできない相談だった。彼の感想文は単にあらすじを書くレベルに留まっていた。
授業の重苦しさに耐えきれず、窓から校庭を見ると模型飛行機が飛んでいた。6年生のあるクラスが、模型飛行機の競技をしているみたいだった。曲げた竹ひごに障子紙より薄い紙を貼り、ゴム動力でプロペラを回すタイプだ。良太は今まで何回も組み立てたことがあった。
―僕だったら、もっと高く、長く飛ばせるんだがなあ。
 良太はやきもきしながら、ふらふら飛ぶ飛行機を眺めていた。
「神崎君、20ページの3行目で筆者はどんな気持ちを表わそうとしたんですか」あまりにも唐突に、足立教諭の声が響いた。
夢から覚めたように良太は彼女の方を向いた。目は焦点が定まっていなかった。
「よそ見してちゃ駄目でしょ。では山口君は分かる」足立は別の生徒を名指しした。山口は最近、転校して来た人気者だ。良太は山口にやっかみの気持ちを抱いていた。答えられなきゃ良いのにと思った。
ところが山口はすくっと立つと「筆者は飼い猫をいとおしむ気持ちを、その文章で表わしたと思います」と答えた。
「そうね、その通りだわ。神崎君、分かった。山口君を見習わないといけないわ」足立は嫌味たらたらだった。
良太は胸のムカつきを抑えるのがやっとだった。
―このままじゃ済まないぞ。
 彼が学校嫌いになったのはこの頃のことだった。
11に続く
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