啓示3

その3)
「神様、人々の心からあなたが消え去ったことは不満ではありませんか」
「大いに不満なんじゃ。その不満をどこにもぶつけられなくて困っておる」
「それは社会の問題でしょうか。家庭の問題でしょうか」
「どちらも問題じゃよ。戦前、日本にはまがりなりにも神を崇拝するという心はあった。人間を超えた存在があることを意識するだけで良いのじゃ。それが今はない」神は深い溜息をついた。
「全くです。今の日本で道徳教育や宗教教育はタブーと見られてますからね。人間は自由を謳歌するあまり、自信を通り越して過信に至ってますね」
「わしは人間に心という神に直結した器官を与えた。それにも拘らず心を悪魔に売り渡す輩が何と多いことか」
神が悪魔という言葉を発するが早いか、この暑い陽気にも拘らず黒ずくめの悪魔がどこからともなく現われた。
「神様、人の心をあっしが奪い取るような言い掛かりは止めて下せえよ。あっしは人間に有意義な機会は提供しますが、心や魂を奪ったりはしやしませんぜ。そんなことをすりゃあ、悪魔会議にかけられて追放されるのが落ちでさあ」
「おお悪魔よ、いつの間に現われよった。お前さんはいつでも前触れもなく突然、わしらの前に現われよるから心臓にわるいわな」
「本当ですよ、悪魔さんは思い掛けない時に現われますよね。僕の身体が不調な時とか、気分が沈んでいる時を選んで心に入り込むから油断も隙もありませんよ。神様、この方達を取り締まる訳にはいかないのですか」H氏は困り果てた様子だった。
「わしにも有効な手立てはないんじゃよ。悪い行為を行なった後なら現行犯ででも取り押さえることができるのじゃが、人の心に悪を吹き込むだけじゃ、さすがのわしでも有効な対策は打てんのじゃ」
「そりゃそうさ。あっしらは人間達に知恵を授けているんだぜ。それをどう生かすかはあんたらの勝手さ。心に悪が入り込んでも、それを撃破する者もいれば、悪の言いなりになる奴もいる。それは全く個人の自由さ。神様もあっしらもあんたらから勝手に自由を奪う訳にはいかんのよ」悪魔はいかにも煩わしそうに尻尾を左右に振り動かした。
「悪魔さん、あなたが現代人を神様から遠ざけている元凶でしょう」Hは単刀直入に突っ込んだ。
「何を言うか、人間の分際で。あっしに責任を振り向けるとはおぬし良い度胸しておるな」悪魔は悪びれもせずにせせら笑った。
「だってあなたはよく僕らの心に入り込んで、神様から遠ざかるように画策してるじゃないですか」Hも強気だった。
「おい悪魔、それは本当か。お前がわしの権威を否定するとは聞き捨てならんぞ。今後はお前の行動もつぶさにチェックせなあいかんな」神は白い髭を指ですいた。
「神様、そこまで眼を光らせないで下さいまし。そんな事をした日にゃ、あなたの仕事は倍増し身体がいくつあっても足りなくなりますぜ。あなたの身体は一つ、しかもわしらの仲間はゴマンといることをお忘れなく」悪魔は不敵な笑みを浮かべた。
「神様、悪魔の言い分に納得されてはいけませんよ」Hは盛んに加勢した。
「いや悪魔の奴は口が立つから時にわしもタジタジになるんじゃ。困ったもんじゃ」
「神様が困ってちゃ、僕らに救いはないじゃないですか」Hは身の細る思いだった。
4に続く
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