神埼良太の転機3

その3)
失望
「そうだ、小学校の担任だった安立先生に聖書を持って行こう」と後先を考えない良太は聖書を手に夕暮れの町を自転車で先生宅へ向かった。20分程で着いた。チャイムを押すと先生が来られた。「まあ、しばらく神崎君、一体どうしたの急に」と先生は少しびっくりしていた。夕食の支度をされていたらしい。
「先生に聖書を持って着ました。読んでみて下さい」と彼はいきなり来意を告げた。
「まあ、でも家には聖書は沢山あるから神崎君、持ち帰ってあなたのために取って置くといいわよ」と言って、先生は受け取らなかった。良太は先生がクリスチャンかも知れないと前から感じてはいたが、やはりクリスチャンだったのだ。彼は何故かがっかりした。先生に感動を届けようとしたのに「私はもう知ってるわよ」と言われたような気がしたのだ。良太h聖書を手にすごすごと帰路に着いた。
人に喜びを伝えることに初めから失敗した良太は「当分この喜びは自分だけの内にとどめておこう」と考えたのだった。その後、長い期間、安立先生とのやり取りがトラウマのように彼の心にのしかかり「人に聖書の良さを教えるのはよそう」という気持ちが尾を引いていた。
良太は一変した。この世に生を受けたことを感謝するようになった。両親を始め、社会全体に感謝した。健康の有難さを初めて知った。「この命を自分だけで使ってはいけない。世の中のために役立てなくてはいけない」と痛切に思うようになった。聖書のイエスは他人のために十字架に掛かり命を捨てた。その事実の重さが彼の心にのしかかっていた。
「快楽だけじゃない。苦痛や苦難をも求めることが俺にとって必要なんだ」と考え始めた。良太は俄然生きることに前向きになった。「快楽ははかないし、金銭第一の生き方も意味がない」と彼は水沼に面と向かって言える勇気が湧いて来た。
暫くして良太は水沼と会ってそのことを告げた。すると予想通り水沼は猛攻撃をして来た。「快楽や金が人生の目的じゃなかったら世の中で生きてる価値がないさ。俺はお前の言うことは偽善だと思う。人間は欲望で生きてるんだ。欲望を思う存分に満たせないんだったら死んだも同然だよ」と彼は飽くまで生まれながらの欲望を優先していた。
「誰もが欲望を優先させたら争いが生じるだけだよ。お互い譲り合う気持ちと感謝の気持ちが大事だと思うんだよね」と良太も静かに対抗した。
「そんなしゃらくせえこと言ってたら生存競争に負けるだけだよ。お前は考えが甘ちゃんだよ」と彼は取り付くしまがなかった。この実利的な水沼に良太は同意を求めはしなかったが心の内に起こった急激な変化を伝えない訳にはいかなかった。良太は高校時代の話にさかのぼった。
4に続く

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