短篇 無法勢子 第5回

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(男女の相性)
「そうよねえ、楽さんみたいに前向きな勢矢ばかりだったら、成功率は高いんでしょうけどねえ。もう一つ重要なのは男女の相性ってことよ。動物の雄雌だってそうでしょ。雄が雌にいかにモーションをかけても雌に拒否されたら交尾は成立しないのよ」
「それが人間の男女関係と関連があるのかい」
「大ありよ。人間の女性も男に出会った時、無意識の内に生殖の対象に成り得るかの基準で相手を見てるとこがあるのよ。見てるっていうか、身体で感じてるってことかな」
「それはどういう意味だい。俺にはさっぱり意味不明なんだけどな」
「女体を牛耳っているのは、あたしたち卵子よ。男が近づくと先ず卵子が反応するんだわ。相手の男の勢矢たちが根性あるかどうかを見抜くのよ」
「えっ、卵ちゃんにそんな能力があったんだ。それは知らなかったなあ」
「そうよ、あたしたちは誰よりも勘が鋭いのよ。あなたたちが困難を乗り越えてあたし達のとこへ到達できる勢矢かどうか、瞬時に見抜けるのよ。それは相手の外観では決まらない。肉体的に強そうだとか、健康そうだとかも判断基準の一つだけどもね、それだけじゃ決まらないのよ。相手の勢矢たちがあたしたちにどれほど興味を抱いているかが重要なのね」
「俺はウランちゃんに興味津々だよ」
「それは初めから分かってるわよ。ただね、今回のような生体を離れた単体同士の出会いはまた話が別なの。これは体外受精の話になるんだわ。それは別の機会に譲るとして、男女が出会った時には先ず初めに勢矢と卵子が感応するって事は憶えておいた方がいいわ」
「一体どうやって感応するんだい」
「順序としてあなたたち勢矢があたしたち卵子にテレパシーを送る。勢矢を抱える男って生き物は眼で獲物を探し当てるのよ。外観で女性を選ぼうとするわ。それも一つのきっかけよね。女は男の視線を感じた時、勢矢と卵子は感応し合うんだわ」
「男は常に良い女を見つけようときょろきょろしてるもんな。女性も男の視線を意識してるって訳か」
「そうよ、女は男に見られることで刺激を受けるのよ。それだけじゃない。女は男に触れられることで最大の刺激を受けるんだわ」
「でもやたら触れたら、痴漢とかセクハラとか言われるのが落ちだろ」
「それは相手の気持ちを無視して触るからよ。女は好みの男から触れられるのを待ってるのよ。好みでない男から強引に触られたら誰だって拒否するわ。その辺の男女の機微を知らなくっちゃね」
「俺の主人Hがそこまで知ってるかどうか、不安だなあ」
「男女の機微に通じてさえいれば、好みの女性を見つけるのは簡単なのにね。先ず視線を投げかけて、相手が感応してるようだったら、何らかの方法で相手に触れるのよ。身体を摺り寄せるとか、指で相手の腕をつつくとかしてみるの。初対面で気持ちが通じそうな確信が得られたら、握手するのも良いかもね。男から相手の反応を探るべきだわ」
「何事も男が主導するって訳か」
「そりゃそうよ。男が先にモーションをかけなくっちゃね、何にも始まらないでしょ。女性に拒否されて男が傷つけば良いのよ。それが恐くちゃ、男の存在価値なんてないわ。そういう拒否されることも恐れない男に女は弱いのよ。そんな男に触られたら、むげに拒絶する女はいない筈よ」
「そうなのか。主人Hにも勇気を出してもらわなくちゃな」
「女は強い勢矢を持つ男に触られると身体が自然と燃えるのよ。身体が一瞬で受け入れ態勢を整えるんだわ。言葉のやり取り以上にスキンシップが大事なのよ」
 
(女体の神秘)
「ところでウランちゃんはどうやって産み出されて来たの」
「あたしは何千何万の仲間と一緒に栗子さんの中で産み出されたのよ。あたしたちは月に一回の割で産み出されては、捨てられるんだわ。もし一ヶ月の中で適当な時期にタイミング良く、元気の有り余った勢矢の一人でも仲間の一人に飛び込んでくれさえしたら、栗子さんも子孫を宿す幸せに預かったでしょうにねえ。可哀そうなことよ」
ウランは少し感傷的になっていた。
「まあ、いずれ元気な勢矢が現われるから心配するなって」
楽観勢矢は慰めるより他なかった。
「あたしたちの一生は本当、短いのよ。必ず一ヶ月以内に捨てられるんだからね。あなた達みたいに悠長にしてられないんだわ。短期間で決めなくちゃいけない運命なの。それでいて受け身ときてるでしょ。じれったいったら、ありゃあしないわ」
彼女は悲しんで良いのやら、怒って良いのやら分からなくなって来た。
「まあ、そう興奮するなって。俺たちだって、寿命の短い奴は一週間と持たないんだからな。若い奴の体内で生み出された知り合いの中にゃ、産まれてから一日もしない内に放出され、息絶えた奴もいらあ。週刊誌の袋とじ写真見ただけで放出されちゃあ、悲劇だよなあ」
「それもそうね。あなた方の宿命もはかないものなのね。栗子さんはさすがに男性のヌード写真見ただけじゃ、その気になんないみたい。女の人って局部的に刺激されるだけじゃ身体が熱くならないのよ。男の人みたいに局部をこすっただけで出されちゃうのは信じられないわ。しかもそれで満足感を覚えられるなんて不思議よね」
ウランはあきれていた。
「中にはこすりもせず局部を押し付けただけで放出された知り合いもいるぐらいだ」
「それはまた酷い話ね。それに比べりゃ、あたし達は誰もが定期的に吐き出されるだけ平等って言えば、平等だわね。でもね、平等であり過ぎるところがあたし達にライバル意識を募らせる原因にもなってるんだわ。生まれた早々、狭いところに閉じ込められて、ひたすらあなた達の到着を待つ生涯を想像してごらんなさいよ。あたし達の世界がいかに狭いかってことが分かるでしょ」
「そう言えば確かに限られた世界かもな。俺たちは一時的に狭い場所に閉じ込められてるとは言え、機会が巡って来れば外に飛び出し、さらに運が良けりゃあ、ウランちゃんがいる世界にも飛び込んで行けるんだ。ラッキーかもな。所詮、男と女の違いを象徴してるようなもんじゃないのか。男は外の世界に飛び出して闘う、女は内にいて家庭を守るってのが定石だろ」
「楽さん、古いわよ。そんなこと言ってたら、今の世の中で取り残されるわよ。今どきの男は内にこもってパソコンを叩く、女は外に出て欲求満たすっていうのが現状よ。現に栗子さんなんか、大学の経済学部出て、一流商社に入ったわ。そこでキャリアウーマン目指して世界を股にかけて、忙しく飛び回わっているわよ」
「言っちゃ悪いが、栗子さんは少しやり過ぎのような気がするぜ。俺の中での女性のイメージは出しゃばらないで男に協力するってのが理想的だなあ。女が男と張り合うってのは、何とも頂けねえなあ。女は世界を股にかけずに、男を股にかけりゃあ良いんだ」
「何それ。セクハラじゃない。あんた、言いたいこと言ってるわね」
ウランは怒りで丸い顔が紅潮した。
「あ、ご免ご免、つい言い過ぎちまった。でもな、ウランちゃん、君らが陽の目を見るには女性方が股を大事にしてくれなくちゃ困るんじゃないのかい。彼女らが男のやる仕事に進出した結果、君らの出番が少なくなったんじゃないのか」
「そう言われればそうかもね」
ウランは少し考え込んでしまった。
「男と女の役割ってのは本来、ある程度決められてんだ。その役割が昨今乱れとるのと違うんかね。女性は仕事優先で、自然から与えられた子を産み育てるといった任務を全うしてないようだな。この状況じゃ少子化は進むし、老人比率は高まる一方だってのは火を見るより明らかだ」
 続く 第6回へ

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